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カーナビゲーション概観

 現在ではカーナビゲーションを搭載しているクルマは1500万台を超え、5台に1台は装備しているというのが実状である。
 カーメーカーから発売される多くの新型車に標準装備されるようになり、標準装備されていないクルマでも、市販のカーナビゲーションを購入して装備するという例が多く、一度カーナビゲーションの便利さを体験すると、クルマを乗り換えた場合でも必ずまたナビゲーションを装備する例が大半である。
 ナビゲーションシステムは、もちろん地図を見ることなく目的地までクルマを誘導できるという基本的な利便性に加えて、VICSから得られる交通情報の活用、目的地周辺などの情報の取得、TVの受信、現在ではDVDメディアの再生、音楽のサーバーとしての活用(HDナビの場合)など多くの機能が付随しており、ドライブには欠かせない存在になってきている。
 またカーメーカーで標準装備されるナビゲーションは、ディスプレィ画面を利用して、クルマに関する情報の表示、携帯電話のデータやメールの表示、インターネット接続、バックモニターカメラの画面表示、エアコン機能の作動状態表示など車両に関連する情報を表示させたり、一体化をはかるなど付加機能の向上を進めている。
 こうしたナビゲーションシステムの開発は、日本が世界をリードしており、最近ではヨーロッパのカーメーカーも、車載情報端末&デスプレィとして積極的に活用するという方向に舵を切っている。
 では世界をリードする日本のナビゲーションシステムはどのような経緯で開発されたのであろうか? その歴史を振り返って見よう。
 カーナビゲーションシステムとして最初に製品が発売されたのは、1981年にホンダが開発したエレクトロジャイロケーターである。このシステムは、透過フィルム式のディスプレィを備え、車輪速センサーから得られる距離情報と、ヘリウムガスを利用したがスレートジャイロによりクルマの方向を検知し、経路を誘導するというものであった。つまり、目的地への経路誘導というナビゲーションシステムに求められるもっとも基本的な要素に絞り込んでいたのである。
 ホンダは1970年代後半に、電子技術全般の先行技術開発に着手したが、その中にガスレートジャイロの開発が含まれていた。ジャイロ自体はクルマの運動性能全般に関連するセンサーのひとつとして重要な存在と考えられたのである。
 ジャイロに着目したのは、荒れ地を走る戦車の砲身をターゲット方向に常に安定して指向させるジャイロスタビライザーからヒントをを得たというエピソードがある。
 ジャイロと車輪速センサーを活用することで、クルマの走行コースを誘導するというアイディアが浮かんだとしても不思議ではない。
 現在位置を検知するために車輪速センサー、ジャイロ、舵角センサーなどを利用しており、ディスプレィの地図はホンダの場合は透過フィルムを使用するといった具合であった。自律航法のキーテクノロジーとなるのはジャイロで、ホンダは液体ヘリウムを使用した流体ジャイロ(ガスレートジャイロ)を高精度化して採用していた。
 これが第1世代のナビゲーションシステムである。
  ホンダは、次世代のナビゲーションシステムとして、地図の自動照合システム(マップマッチング)やデジタル地図化の開発を続けている頃、アメリカでは85年に初のデジタル・マップナビが発売されている。
 またこれから6年後にはトヨタが電子地図を搭載したCD-ROM式ナビを発売している。この電子地図をCD-ROMに収録したこともナビゲーションシステムの進化にとって革新的であった。それまでのアナログ情報の地図では、いったん表示位置の誤差が生じると修正が難しく、精度を上げることが困難であった。地図をデジタルデータ化すれば、自車の走行軌跡と地図とのずれを修正することが不可能ではなくなるのだ。
 ただ、膨大な全国の地図データをデジタル化し、メディアに保存するという難しさがあった。当時主流であったフロッピーディスクでは何百枚にもなってしまうのだが、新たに登場したCD-ROMによりようやくこの問題は解決したのだ。
 そして、ナビゲーションシステムで、主に地磁気センサーやジャイロセンサーだけでは、自車に位置の測定と地図で誤差を生じる場合が少なくないが、クルマは道路を走るという基本特性を重視し、デジタル地図データでの道路と自車の走行軌跡を比較し、形状が一致していると思われる地図上に自車位置を自動補正するというマップマッチングの技術がここで登場してくる。
 こうしたデジタル地図の活用とマップマッチングの技術の実現により、第2世代のナビゲーションは完成のレベルに達したといえよう。
 ホンダも、同じ87年にCD-ROMによるデジタル地図、マップマッチング技術、光ファイバージャイロを採用した全自動の自律航法式ナビシステムを発売している。
 なお86年には、業界の規格標準化などを目的にナビゲーションシステム研究会も設立されている。
 この時代に完成した第2世代のナビゲーションは、現在のナビとは異なり、自車に搭載したジャイロや車輪速センサーによって自車の位置を割り出す、目的地への経路誘導を行う自律航法という考え方を採用していた。これは航空機が自律航法を採用しているのと同じような発想といえる。日産もやはり同様なシステムでナビゲーションシステムを発売した。
  実はカーナビゲーションについては自動車メーカーも開発を競っていたが、電装メーカーやかーオーディオメーカーもそれぞれ独自に開発を行っていた。
 例えば三菱電機では車上で方角を表示する電子方位計の開発を手がかりに、カーナビの開発を開始し、地磁気センサーと車輪速センサーによりクルマの走行軌跡を算出する技術により自律航法を確立していった。しかし、他社の例と同様に、アナログデータの地図を使う限り、精度の限界に達していた。より高度なナビゲーションシステムとして成立させるためにはデジタル地図化がキーになり、CD-ROMの普及を待ってデジタル地図が実現し、また同時に、デジタル地図の情報と、自車の走行軌跡のずれを修正するマップマッチング技術も1985年頃に完成していた。しかし、これは他社の例と同様に、地磁気やジャイロ、車輪速センサーを使用した自律航法式のナビゲーションシステムである。
 ただ、いずれにしても地磁気やジャイロの精度には限界があり、より高精度であることを求めるのは難しかった。もっと高い精度を求めることが第2世代のナビゲーションの共通の課題だったのである。
 より高い自車位置の精度を求めるには、従来のセンサーだけでなくより正確な手段を加えればよい。
 そこで注目されたのが、GPS(Global Positioning System)である。
 GPSは元来はアメリカの国防省が、地球上すべてをカバーできる軍事用の位置測定システムとして1970年代に開発に着手し、80年代にほぼ軍事的な運用が完成していた。一方で、83年に大韓航空機が飛行コースを逸脱し、その結果ソ連の戦闘機に撃墜されるという大韓航空機事件を契機に、GPS航法システムが民間にも開放されることになり、まず航空機の航法システムとして採用されるようになった。そして1990年にはGPS関連技術は完全に民間にも無料で公開され、利用が可能となったのである。
 高度21000kmという高空の軌道を周回するGPS衛星は、当初は24個(現在は28個)あり、地球上のどの位置においても常時5個以上の衛星からの電波を受信することができるようになっている。そしてこれらの衛星から発信する電波を受信することで現在位置を算出することができるわけだ。受信機が1個の場合は、同時に3個の衛星からの電波を受信することで2次元の測位が可能になり、位置測定の誤差は100mていどとされている。
 さらに高精度なナビゲーションを実現するため自車の現在位置確認の手段として、この民生用に開放されたGPSを使用することが着想されたことはいうまでもない。GPSと従来の航法システムを統合したシステム、つまりハイブリッド・ナビゲーションシステムの開発が三菱電機で行われ、85年のモーターショーではやくもGPSカーナビのプロトタイプが発表されている。
 三菱電機製のGPSナビゲーションシステムは90年にマツダ・ユーノスに純正装備され発売されている。
 カーオーディオメーカーのパイオニアも独自にGPSを使用した、自車位置表を地図上に表示する機能に絞ったナビゲーション・システムを90年に発売し、その翌年にはCD-ROM式のナビゲーションシステムを発売している。
 このようなGPSという誤差が少ない測位システムと、従来からのジャイロや地磁気センサーと組み合わせ、また同時にデジタル地図とのマップマッチングを加えることで、現在位置の表示精度は格段に向上したわけである。
 一方、CD-ROMに格納されたデジタル地図のデータも、年々詳細データが追加され、データ量は増大の一途をたどっていた。
 当初は日本全国の地図データが1枚のCD-ROMに納められていたが、後には全国版、詳細地域版といったように分割され、詳細地図で全国をカバーするにはCD-ROMは4枚~6枚といった枚数が必要という事態に至ったのだ。これは、長距離をドライブする場合、拡大版で我慢するか、詳細版のCD-ROMを入れ替えるといった不便をもたらしたわけである。
 ところでハイブリッド式CDナビゲーションシステムは、1996年に開始されたVICSにもいち早く対応した。当初はオプション扱いとなっていたが、ビーコンとFM多重放送によるVICSに対応できるようなシステムを積極的に採用していったのだ。またこれより1年前には警察庁の外郭団体である日本交通管理技術協会から一方通行や進入禁止などの交通規制データがリリースされている。これらにより、ナビゲーションは交通情報をキャッチし、それをドライバーに表示することが可能になり、ドライバーは交通渋滞や交通規制を事前に知ることができる。もちろん交通規制にも従った現実的な経路誘導ができるようになったわけである。また後にはVICSの交通情報に合わせて目的地への経路誘導コースを自動的に変更するといったことも可能になっている。
 VICSにより交通情報を取り込む機能と、この情報をもとに新たな判断を行うという機能は、ナビゲーションシステムがより高度なコンピューターシステムへと移行することを示していると考えてもよいだろう。
 つまり、ナビゲーションシステムはたんに地図を表示したり、目的地に到達する経路を示すだけではなく、もっと幅広い用途に使用できる車載コンピューターという位置づけも可能になったのである。
 CD-ROM式のナビゲーションシステムは、搭載できるデータ量に限界があり、一方で求められるデータ量は増大していたため、より大容量のメディアが求められていた。
このCD-ROMのデータの限界をうち破ったのが、CD-ROMの7倍以上の容量を持つDVD-ROMの登場である。DVD-ROMはもともとは家庭用のビデオ再生のためのメディアとしてスタートを切っているためCD-ROMとは比べものにならないほどの大容量のデータが格納できたのだ。
 1997年に、パイオニアがいち早くDVDにデータやソフトウエアを格納したナビ・システムを発売。これ以降はDVDナビゲーションが主流になっていった。
 DVD-ROMは全国詳細版の地図データを収録しただけではなく、職業別電話帳に登録されている電話番号データの収録、施設に関連する情報、音声による操作ガイドなど、それまでには考えられなかった付加的な価値も拡大させている。
 このDVD-ROMの採用とVICS対応により、カーナビゲーションシステムはほぼ熟成の域に達したと考えてよいだろう。
 ただ、データや経路の検索速度のさらなるアップと、データ収納容量の拡大の動きは収束することなく、2001年にはパイオニアからハードディスク搭載のナビゲーションシステムが発売されている。
 この結果、経路検索やリルート機能などの速度が大幅に向上しすると同時に、さらなるデータスペースの余裕が実現した。パイオニアはこのスペースを利用してミュージックサーバーの機能を与えたのだ。CD音楽を1回再生するとそのデータが取り込まれ、やがて音楽データのライブラリーができる。これによって従来のCDチェンジャーは不要になるわけだ。
 またHD式ナビゲーションシステムであれば、地図データの更新や付加情報の追加、携帯電話の電話帳のアップロード、ナビゲーションシステムのソフトウエアのバージョンアップなども、パソコン同様に行うことができるようになったのである。
 もちろんこうしたハードディスク方式を自動車メーカーの純正化すれば、車両の情報の記憶機能、データろがーなどの機能も簡単に追加することができる。
 いいかえれば、現在はナビゲーションシステムがやがては完全なオンボードパソコンとなりつつある過渡期といえるかも知れない。
 もうひとつ付け加えれば、従来のVICSとは別に、自動車電話、または携帯電話を外部との通信手段とすることで、インターネット接続が可能になるということである。
 これはテレマティックスの機能とも重なるが、インターネットサーバーからより詳細でリアルタイムのな目的地への経路誘導情報や、経路周辺の付属情報なども自在に引き出し、ナビゲーションシステムの画面に表示することができるわけである。またインターネット接続は双方向性を持っているので、車内からデータや情報の発信も可能になる。これはホンダのインターナビとして実現している。
 こうした流れの中で、次世代のナビゲーションシステムのOSが、今後はマイクロソフト・ウインドウズCEに転換するのではないかという予想も出現している。それまでは主として家電用のマイコンのOSを使用してきたが、通信やインターネットなどとの連携、統合のニーズが強まるとともにウインドウズCEが浮上してきたのだ。
 そして2000年にはマイクロソフト社は、トヨタや日産、デンソー、クラリオンなとカーナビゲーション用ウインドウズCEの協議会を設立している。
 これはウインドウズCEをOSにしてGPSを利用した経路誘導や携帯電話の接続やインターネット接続を行おうというものである。
 実際、2002年の年末にクラリオンから初の車載コンピューター「CADIAS]が発売されているが、このシステムはウインドウズCEオートモビルバージョン3.5をOSに採用している。このシステムは、ナビゲーション、パソコンとの同期、ラジオ、TVチューナー機能、インターネット接続、通信、インターネット、メール、オーディオやDVDビデオの再生、PCカードスロット対応、USBポート装備などパソコン、あるいは高性能PADと同等のレベルを目指しているわけである。
 進化を続けるナビゲーションシステムは、今後はテレマティックスの領域や車両情報との一体化など、さらなる新しいステップに向かって歩み続けている。

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