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マルチエアエンジン フィアットグループが実現した圧倒的技術革新 

 フィアットグループのFPT(フィアットパワートレーン・テクノロジー社)が、世界的に見ても圧倒的に革新的なエンジンを開発し、まず最初にアルファロメオ MiToに搭載され日本では今年3月に発売された。(グレードは、スプリント、コンペティティオーネ。いずれもアルファTCT「DCT」トランスミッションとの組み合わせ)
 さらに7月からはよりースポーツ仕様で装備も充実したクアドリフォリオヴェルデを追加発売。ベースモデルが1.4Lターボで135psに対して、クアドリフォリオヴェルデは170ps(リッター当たり出力は124ps/L)にパワーアップ。ただしこのモデルは6速MTのみの設定になっている。

*FIAT POWERTRAIN TECHNOLOGIES

 これらのベースになるエンジンは、直列4気筒16バルブ+ターボで、排気量は1368cc(72.0×84.0mm)。圧縮比は9.8となっている。また吸排気バルブのバルブ挟み角がきわめて狭く、超コンパクト燃焼室を形成。燃焼速度の向上を重視していることが分かる。
 チューニングにより135ps、170psがラインアップされているが、今後はNAエンジンも追加されるようだ。
 この新開発エンジンは「マルチエア」と名付けられ、グループのFPTで開発され、アルファロメオブランドで年末頃に発売されるジュリエッタに搭載されるだけでなく、フィアット(プント・エヴォ、ブラーヴォ)、ランチア・デルタにも順次採用される。

eg_ex.jpg
 
 マルチエアという名称はちょっと分かりにくいが、ダウンサイジングコンセプトのエンジンであり、小排気量+過給により燃費とパワーを両立させる。ダウンサイジングコンセプトの先駆者であるVWが連続可変バルブタイミング+直噴+過給であるのに対し、マルチエアは連続可変バルブタイミング&リフト(スロットルレス)+過給を採用した。
 連続可変バルブタイミング&リフト機構は、吸気量を吸気バルブの連続可変リフト化により制御するためスロットルバルブは不要となる。この発想はBMWのバルブトロニックを先駆けとし、日本でも日産のVVELなどが登場しているが、いずれもモーターと機械的な可変リフト構造を組み合わせたシステムになっている。
 これに対して、マルチエアは電子油圧制御により吸気バルブの連続可変タイミング+リフトを実現。つまりカムシャフトによる作動から切り離したのだ。

valveup.jpg

 吸気バルブの開閉を油圧制御のみで行う、つまり機械的な要素を持たないため、バルブタイミングとリフト量には大きな自由度が与えられるという点できわめて革新的であり、システムとしてBMWのバルブトロニックを上回っている断言できる。マルチエアエンジンはこの新機構とダウンサイジングコンセプトを組み合わせることで、高いパフォーマンスを実現した。
 もともとアルファロメオは、ねじりギヤ式の連続可変バルブタイミング機構を世界に先駆けて開発するなど、バルブ可変技術の研究に関しては世界でもトップレベルにあった。
 
 ここ10年間、コモンレール方式の高圧直噴技術が開発されたことで乗用車用ディーゼルエンジンは飛躍的な進歩を遂げたが、フィアットグループはガソリンエンジンの分野で競争力を高めるため、同様な手法で画期的な技術革新を目指した。
 従来型のガソリンエンジンは、燃焼室へ供給される空気量は吸気バルブのリフト量やスロットル開度、そして上流側の気圧(ブースト)に左右されざるを得なかった。このメカニカル制御の空気供給方法の欠点は、吸気マニフォールド内の気圧が大気圧よりも低くなるためポンピングロスを避けられず、これは約10%のエネルギーロスを生じる。
 ガソリンエンジンの供給空気量のコントロールを革新するには、吸気バルブで直接空気量を制御する方法が必要で、これによってスロットルバルブは不要となる。
 これを達成するため、電子制御式のマグネチックアクチュエーター(磁気駆動機構)の利用が着目され、上下両側に設置した電磁石で生じる磁力を交互に切り換えることで、アーマチュア(対応する磁性体)を取り付けたバルブを開閉する仕組みが考案された。この電磁バルブ駆動システムは、バルブ開閉で優れた応答性を持っている。しかし、その反面でフェイルセーフの点で不安が残ること、エネルギー効率が低いことから約10年の歳月が費やされたにもかかわらず実用化はされなかった。
 その結果、BMWを筆頭によりシンプルで信頼性が高くすでに広く普及している電子制御式メカニズムに基づいた可変バルブタイミング&リフト機構の採用に方針変換された。カムシャフトの位相制御機構に組み合わせたバルブのリフト量や開閉タイミングの制御も機械的に実現された。しかしBMWのバルブトロニックシステムなどの宿命的な限界は、バルブ開閉タイミングについての自由度や応答性が低いことだ。たとえば全シリンダーが一括制御されてしまうことから、特定のシリンダーに対して個別に制御はできないのだ。また機構的に複雑で部品点数も多くなる。
 1990年代半ばにフィアットの研究開発チームはコモンレール式ディーゼルエンジンの開発中に得たノウハウから、電子制御式油圧駆動メカニズムの開発を指向した。開発のゴールは個別シリンダーごと、吸気や圧縮、燃焼、排気の工程ごとに供給空気量を調節するためのバルブ開閉制御に要求される自由度を狙ったのだ。フィアットが開発した電子制御油圧駆動式可変バルブ開閉メカニズムは、シンプルで、駆動エネルギー要求量が低く、本質的にフェイルセーフ機能を備え、量産にあたっても比較的低コストな可能性を持っていることから開発ターゲットとされた。
 
*マルチエアの作動原理

valvetrain.jpg

 吸気用カム(排気バルブ用のカムシャフトを兼ねる)により駆動される油圧ポンプで発生した油圧が、蓄圧チャンバー内のオイルを介して吸気バルブを作動させる。このチャンバー内の油圧制御はノーマルオープン型ソレノイドバルブのON/OFF、つまり開閉作動により油圧を保持したり開放を行う。
 ベルト駆動される1本のカムシャフトは、排気バルブを作動させることと、吸気バルブ作動用の油圧加圧のためのカム山を持つ。加圧用のカム山の動きは、ローラーロッカーアームを介して吸気バルブ作動用の油圧ポンプ部に伝達される。したがって、メカ的にはSOHC・16バルブとなる。
 ソレノイドバルブが閉じている時は、油圧チャンバー内に満たされているオイルが固体のように作用するので、吸気バルブの開閉タイミングは吸気用カムのプロファイル(カム山特性)に直接連動。一方、ソレノイドバルブが開くと内部のオイルが油圧チャンバーから流れ出すので、吸気バルブの結合が解除される。その結果、吸気バルブは吸気カムと連動せず、バルブスプリングの作用により吸気バルブが閉じる。また、エンジンの作動状態にかかわらず吸気バルブが閉じる時の最終段階では、ハイドロリックブレーキ(Hydraulic brake)と呼ばれるプランジャー部の油圧抵抗が作用することで、バルブシートに対して衝撃を与えないようソフトで着実にバルブが閉じる。
 これらの仕組みにより、油圧チャンバーに備えたソレノイドバルブの開閉時間を制御することで、吸気バルブの最適な開閉タイミングを広範囲に制御することが可能になるのだ。



*吸気バルブの作動状況

valveliftmodel.jpg

 最高出力時には、ソレノイドバルブを常に閉じ、吸気バルブが最も大きく開くよう吸気カムと直結の状態になり、高回転域での最高出力発揮に特化する(吸気バルブを長く開ける)。
 低回転域で出力・トルクを向上するためには、カムプロファイル(カム山)の終わり付近でソレノイドバルブを開けて油圧を逃がし、吸気バルブとの連結を解除することで、吸気バルブを早く閉じる。この結果、混合気が吸気マニフォールドへの逆流を防ぎ、シリンダーへの供給空気量を最大にすることができる。
 部分負荷の状況では、ソレノイドバルブを早めに開けることで、要求されたトルク量に見合うだけの空気量を供給するよう吸気バルブの開度を制限する。
 また、吸気カムが作用を始めた後、タイミングを遅らせてソレノイドバルブを閉じることで吸気バルブを少しだけ開けることがでる。この結果、シリンダーへ吸気流速が速くなることからシリンダー内渦流を効果的に発生させ燃焼速度を高める。
 また1回の吸気行程(ストローク)中に、これら2つのモードを組み合わせることができ、きわめて低い回転域で負荷が低い状況であっても、渦流形成と燃焼速度を向上させることができる。これはマルチリフトモード名付けられている。
 
*マルチエアの効果
1. 最高出力優先型の吸気カムプロファイルを採用すると、最高出力を約10%向上。
2. 吸気バルブを早く閉めることでシリンダーへの充填効率を高める結果、低回転域でのトルクを約15%向上。
3. 同じ排気量ならば自然吸気やターボチャージ式エンジンにかかわらず、ポンピングロスを削減することで、燃料消費量とCO2排出量を約10%低減。
4. 同等の動力性能を維持しながらも、ダウンサイジングとマルチエアテクノロジーを採用することで、従来型自然吸気式エンジンに比べ、約25%の燃料消費量を低減する。
5. 暖気中のバルブ開閉タイミングの最適化や内部EGR効果、排気行程中に吸気バルブを再び開ける効果により、エミッションレベルを大幅に改善。HCとCOを最大約40%、NOxは約60%低減。
6. 自然吸気式エンジンでは、吸気バルブの上流側で常に大気圧並みの気圧を保ち、ターボチャージ式エンジンではより高めの気圧を維持。さらに、シリンダーごと、ストロークごとに、より速い吸気流速を維持することで、卓越したエンジンのダイナミックレスポンスを提供。
7. 従来のDOHCエンジンよりもカムシャフトが1本少ない分だけカム駆動抵抗が減少し、燃費向上に貢献。

valvelift.jpg

 この革新的なマルチエアエンジンは1.4Lの16バルブからスタートし、自然吸気式とターボを設定する。次の段階では、新型スモールガソリンエンジン(SGE:排気量900cc/2気筒)を開発。このエンジンのシリンダーヘッドは、最初からマルチエアテクノロジーのアクチュエーターを組み込むことを前提にした最適設計とされている。この2気筒エンジンでも自然吸気式とターボを設定。そして、ターボエンジンには、ガソリンとCNGという2つの燃料に対応した専用のバイフューエルバージョンを用意する。
 この2気筒ターボエンジンは、ダウンサイジング効果のためディーゼルエンジンに匹敵するCO2排出量を達成するという。さらに、天然ガスを燃料にした仕様では80g/km以下のCO2排出量が達成できるという。
 
 なお、マルチエアテクノロジーは汎用性に優れ、あらゆるガソリンエンジンに容易に適用できるほか、将来的にはディーゼルエンジンへの対応も可能という。
 今後の開発プロセスは、まず直噴化で、これによりエンジンの過渡特性と燃費をさらに向上できる。またバルブの開閉もさらに多段式開閉モードを行うことで燃焼改善を実現する。ディーゼルでは排気工程で吸気バルブを開けることで内部EGR量を拡大でき大きなNOX低減効果が得られることがメリットである。
 
 このマルチエアを初めて採用したFPT 1.4Lターボエンジンは、2010年のエンジン オブザイヤー賞(ベストニューエンジンオブザイヤー部門)を受賞した。
 マルチエアは最新のダウンサイジングコンセプトを牽引する興味深いエンジン技術であり、大いに評価できると思う。





コメント

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Re: iichiko さん

コメントありがとうございます。

残念ながら国産車メーカーはバブル崩壊以後、開発コストさえ削ってしまい、新たな技術に対する挑戦はほとんど行われなくなりました。特にエンジン関連技術はヨーロッパ勢からかなり遅れてしまっています。

> 自分的には GOLF TDIを買うつもりで首を長くして待ってるのですがその気配は全然無いですね 

残念ながら、VWもアウディも日本導入は取りやめのようです。日本の市場がハイブリッド、EVへ急速に傾斜して
いる現状を考えてのことだと思います。

> ところでこの マルチエア、インテークバルブの動作をカムから完全に切り離すことが出来ないのは
> 高回転時に追従性が保証できないから・・・。
> いやソレノイドバルブ関係の不具合が起きてもとりあえず走ることが出来るようにですか・・・

やはり大きな理由はフェールセーフを考えのことだと思います。また副次的には別体のポンプではなくカム山で油圧を生み出すという発想もベースになっているからだと思われます。

No title

VWのTSI&DSGの時も感じましたが、こういう技術は日本が得意分野だと思っていました
ターボ時代末期のF1で HONDAの後藤監督が 燃焼は奥が深い、まだまだやれることはたくさんある
とかいってましたが 最近のこのていたらく どうなちゃってんでしょうね
ミニバンとハイブリッドしか見えてないのでしょうか
自分的には GOLF TDIを買うつもりで首を長くして待ってるのですがその気配は全然無いですね 

ところでこの マルチエア、インテークバルブの動作をカムから完全に切り離すことが出来ないのは
高回転時に追従性が保証できないから・・・。
いやソレノイドバルブ関係の不具合が起きてもとりあえず走ることが出来るようにですか・・・
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