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アンチロッブレーキ(ABS)の再考察

 1928年、ドイツ人のカール・ウェッセルが、自動車用ブレーキフォース・レギュレーター、つまり現在でいうアンチロック・ブレーキシステムの特許を取得している。もちろんこれは機構的には実現せず、特許だけに終わった。1941年にはアンチロック・ブレーキレギュレーターの試作品によるテストが行われた記録もある。「一定の効果は認められた」と当時のドイツ自動車工学ハンドブックに記載された。
 しかしこうした先駆者の挑戦により、アンチロック・ブレーキシステムにはホイールの車輪速センサーと、各センサーのデータを比較し、ロック寸前のホイールのブレーキ圧を調整するコントロールユニットが必要であることが明確にされた。
 時代を追うと、1952年に航空機用に機械式センサーを使用したアンチロック・ブレーキ(マクサレット=ダンロップ社)が、そして54年には鉄道用のシステムが実用化された(日本では新幹線用の機械・電気式ABS:1964年が初)が、道路を走る自動車用は実用化されなかった。
 航空機用、鉄道用の車輪速センサーは、メカニカルなフライホイールに装備する摩擦式センサーが採用されたが、これは自動車には不向きだった。高温、泥による汚れ、加速、減速といった自動車特有の使用条件に適合しなかったのだ。
 ただし、1960年代から70年代にかけてイギリスでは機械式ABSが試験的に採用したクルマが発売されている(ジェンセン、ファーガソン、フォード)

 電気制御式ABSについて、ドイツのTELDIX社とダイムラーベンツ社が共同研究を行い、機械式センサーに代わる新たなセンサーの開発を行った。
 そして1967年に非接触型の誘導コイル式センサーを実現した。電磁ピックアップにより車輪速を計測し、ソレノイドバルブによりブレーキ圧力をコントロールする方式だった。ただし、アナログ制御のアンプと油圧コントロールであるため、きわめて回路が複雑で、正確に制御できなかった。
 1970年末に、ベンツ社はウンタートゥルクハイムのテストコースにおいて、トラック、バスにTELDIX社と共同開発した試作システムを搭載し、公開テストを行い大きな反響を得ている。
 しかし次世代の、実用、量産化できるアンチロックブレーキ・システムの開発にはさらに8年を要した。
 この後ベンツ社は以前からABSを研究していたボッシュ社と新たに共同開発を行い、最新の電子制御化に挑戦した。
 ボッシュはデジタル制御システムによる試作品を完成するのに5年間を費やした。
 デジタル制御にしたことで、車輪速センサーの車速比較とブレーキ油圧制御のパルス送信をブレーキ圧制御ソレノイドバルブにミリセカンドの単位の速度で送信できるようになったことが画期的で、センサーの配置は、従来の前輪だけではなく後輪にも配置できるようになった。
 1978年8月にベンツ社は第2世代(デジタル第1世代)のABSを発表し、同年末のSクラスにオプション設定された。これが量産の電子制御ABSの始まりであり、1987年にはベンツ社の全社に標準装備化が完了している。またトラック、バスのエアブレーキ用ABSはWABCO社と共同開発を行い、80年代の後半からドイツのバス、トラックに標準装備化されている。

 ABSは、登場直後は3チャンネル(前輪独立2チャンネル/後輪1チャンネル)、簡易型は2チャンネル(片側輪1チャンネル×2)、現在は4輪独立の4チャンネルが標準化している。当然ながら4輪独立制御の方がより高精度に制御できる。またブレーキ油圧の制御モードも、減圧/増圧の2モードから、減圧/増圧/保持の3モード、急減圧/急増圧/緩増圧/緩減圧/保持の多モード、さらにはリニアソレノイドバルブを使用したリニア制御へと進化してきている。
 また、4チャンネルABSにより4輪独立ブレーキ制御の機能は、その後はEBD(ブレーキ力前後自動可変配分)、LSD機能+トラクションコントロール、ESP(横滑り制御)を含めた統合制御へと拡大している。
 プリクラッシュセーフティにおけるレーダー波やカメラ画像による追突防止&軽減自動ブレーキ機能や、インテリジェントオートクルーズによる自動速度調整機能などもABSの基盤があってこそである。
 このように最新世代のABS技術はシャシーの総合電子制御に不可欠ともいえる存在になっている。
 このような進化の過程ではブレーキバイワイヤーに発展させる発想も当然ながら出現してくる。このブレーキバイワイヤーは、ベンツ社が2001年から一部の車種に採用した(もちろん機械式油圧バックアップを持つ)が、約2年後にはシステム不具合が多いため廃止している。30型プリウスはブレーキバイワイヤーといわれているが、正確には機械式油圧をセンシングして電動油圧ブレーキを発生しているため半ブレーキバイワイヤーといえる。
 ブレーキの場合、電子制御システムの失陥を考慮し、機械式油圧ブレーキをバックアップとして存続させざるを得ないため、完全なブレーキバイワイヤーは登場しにくいと考えられる。
 
 日本では1980年代後半から90年代にかけて普及した。ABSが登場した80年代後半にサーキットで高級ドイツ車の試乗会が行われ、全日本ラリーー出身のレポーターが200km/h以上出る直線部の後半でハードにブレーキをかけたところABSが作動し、そのペダルのキックバックをブレーキの故障と勘違いしてブレーキを緩めたためオーバースピードでコースアウトしクルマを大破させた事件があったほど、ジャーナリストと呼ばれる人でも認識は薄かった。
 また自動車メーカーでも、この当時はエントリー層向けの安価なクルマならともかく、高性能車にはABSは不要とコメントするエンジニアもいたほどである。
 日本では、低価格車には2チャンネル、その後も3チャンネルABSが設定されたこともあり、ABSはタイヤロックによるスピンモードにはならないが制動距離が伸びるという説がかなり定着した。しかし、これは間違った観念である。
 最近のプリウスのブレーキ事件の時でも「ABSは急ブレーキ時でもステアリング操作できる機能」という考えを示した人は、一般人でも業界人でもけっこう多かったことに驚かされた。これは誤りではないが、機能の一部に過ぎないのだ。
 1990年代にはドイツのツーリングカー選手権(DTM)でABSが導入され(その後禁止されたが)、圧倒的なブレーキパフォーマンスを実証したし、その後はF1グランプリにも導入されたが、これもすぐに禁止されたことからもわかるように、圧倒的にブレーキ性能を高めることができたのだ。
 ABSは濡れたり凍っている路面で機能を発揮すると考えられているが、実際にはドライの路面、サーキット路面でも有効に、しかも限りなく精度の高いブレーキが可能になる側面を持っている。
 もうひとつ、ABSが作動しやすいのはウエット路や凍結路であり、軽い踏力で簡単にABSが作動するため、ブレーキのペダルのキックバックが生じた段階でABSが作動し、その直前で最大のブレーキ力に達していると考えられがちだが、実はABSの作動にも一定の幅があることはあまり知られていない。
 つまりABSでも効き始めに達するブレーキ油圧と、最大のブレーキ力を発生するブレーキ油圧は異なり、だからABSが作動を開始しても最大のブレーキ力を得るためには、さらに一段と強くブレーキペダルを踏み込む踏力が必要だということだ。
 これは、ABSなしのクルマで実験するとわかるが、強いブレーキを踏むとまず前輪がロックする。ABSありの場合はこの段階でABSが作動するのはいうまでもない。
 しかし、実際には前輪のみのロックではなく、4輪がロックするようなハードなブレーキはさらに一段強いペダルの踏み込みが必要なのだ。
 ABSありの場合でも、この4輪同時ロックの状態のブレーキ踏力によりはじめて最大ブレーキ力になるのだ。
 だから、事故を回避するようなパニックブレーキの場合は、ABSが作動してもなお一段と強く踏み込む必要がある。これを補完するのがブレーキアシスト(BA)なのである。BAの普及はまだ50%ていどと思われる。BAは、特にパニックブレーキが必要なときに、一般ドライバーの70%以上が、危険が迫っているため体が硬直し、素早い強いブレーキを踏むことができないという研究結果から生まれている。
 どんなにクルマに優れたブレーキシステムが装備されていても、ドライバーが緊急時に最大ブレーキ力を発揮できないという、心理的な要素をカバーするのがBAである。
 
 ABSの基本システムは、車輪速センサーがホイールの回転をモニターし、特定輪の回転数が少なくなったときや停止したとき、つまりロック状態を検知すると、油圧ポンプモジュールが作動して、ロックしたホイールのブレーキ油圧を緩め、ロック寸前状態を維持し、操舵との両立をはかるフィードバック制御である。
 図からもわかるように、最大のブレーキ力が得られるスリップ率10~20%の範囲で、なおかつタイヤのコーナリングフォースが最大に近い領域ををABSが制御するため、理論的に最大のブレーキ力と操舵を両立させていることがわかる。
摩擦係数
↑各路面におけるスリップ率によるブレーキ力の差

slip-graph2.jpg
↑オレンジ色のゾーンがABSの制御範囲

 スリップ率は、車体速度から車輪速を引いた速度を車体速度で割った値で、スリップ率0%は車輪速度=車体速度、すなわち、タイヤが路面を転がっている状態。スリップ率100%=スリップ比が1.0は車輪速度がゼロになっている状態。つまり、タイヤが完全にロックしていることを意味する。スリップ率がマイナスになる場合は、車輪速度>車体速度の場合で発進時にアクセルを大きく踏込みタイヤが空転た時を意味する。この発進加速時もスリップ率がマイナス10~20%のときが最大の発進加速力が得られる。
 つまりブレーキ、発進時のスリップ率は、コーナリング時のスリップアングルと同等の意味を持つのだ。
 こ最適の範囲、スリップ率が10~20%の間で1秒当たり50回の油圧コントロールは、どのようなプロドライバーでも不可能であり、これがABSの優位性である。
 現在の車輪速センサーの精度は飛躍的に高まり、ほぼロック寸前の状態まで検出ができるし、ブレーキの油圧の制御も毎秒50回のサイクルでコントロールできるようになっている。しかし、現実はそうしたフィードバック制御だけではなく、さらに高度な路面の摩擦力や運転モードを推測する路面判定、運転判定などのロジックも取り入れられている。そのためgセンサーも組み込まれているのだ。
 つまりフィードバックだけではなく、フィードフォワード制御の要素も組み込まれているのだ。路面判定は、gセンサーだけではなく各輪の車輪速センサーでの回転数のばらつきぐあいなども判定要素として制御ロジックに組み込まれている。
 ドライの舗装路面やサーキットで、ABSが最大限のブレーキ力が得られるのは、最適なスリップ率を維持できること、さらにコーナリング中のブレーキ力はタイヤの摩擦力の中でブレーキに配分できる最大のブレーキ力を維持できること(言い換えるとタイヤの摩擦円の中で最大のブレーキ力を引き出すことができること)というふたつの理由による。
 ただし、サーキットでプロのレーシングドライバーが常に最大限のブレーキを使用しているとは限らない。最大限のブレーキ力を使用することでブレーキの発熱が増大しフェードすることを考慮し、フェードが許容できる範囲になるように80%ていどのブレーキに留め、100%使用するのは予選の1回だけ、といった戦略的なブレーキを使用しているのも事実である。
 ABSをオフにした方がブレーキ力が向上するケースは、雪道や砂利道などで、タイヤのトレッド面のブロックパターンがロック状態になることで路面に食い込み、物理的な抵抗力生じるときである。しかし、この時はステアリングは効かないため、必ずしもロックさせればよいというわけではない。
 また、今回のプリウスのブレーキ問題の原因になった、スプリットミュー、つまり片側はグリップし、片輪が濡れたマンホールや凍結路面であった場合は、ABSが瞬時に作動し、またスピンモードに入ることを防止するためにグリップ側のホイールのブレーキ圧も減圧されるため、瞬間的ではあるがブレーキ力が弱まり(スリップ路面は瞬時に通過している)、4輪がグリップ路面に移動した時点でもブレーキ力の不足を感じるシーンはどのクルマでも発生する。
 このケースでは、ブレーキペダルに振動を発生させることでABSが作動したことをドライバーに警告し、ドライバーにブレーキの踏み増しを促すのが正解だと思う。
 

コメント

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Re: ABSとは

コメントありがとうございます。

> この図を理解していない人が多いので困ります。カーマニアや評論家など中途半端に詳しい人ほど「ABSは制動距離を短縮するものではない」と言いますし、メーカですら(何かあった場合の保険なのか)そのようにアナウンスしている場合もあります。

その通りです。メーカーまでがそのような説明をするのは・・・腰が引けている感じがします。

> 正しくは「制動距離が短縮されないケースもある」であり、

まさにおしゃる通りです。

ABSとは

>理論的に最大のブレーキ力と操舵を両立させていることがわかる

この図を理解していない人が多いので困ります。カーマニアや評論家など中途半端に詳しい人ほど「ABSは制動距離を短縮するものではない」と言いますし、メーカですら(何かあった場合の保険なのか)そのようにアナウンスしている場合もあります。

正しくは「制動距離が短縮されないケースもある」であり、そうしたケースを最小化するのが技術の進歩というものです。砂漠でロックを回避する為にズルズルと制動距離が伸びるような制御を未だにやっているとは思えないのですが・・・
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