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アクセルペダル事件

 トヨタ昨年11月にフロアマットの不具合によりアクセルペダルが戻らなくなる事例があるとして、アメリカの約426万台のリコールをすることになったが、最近新たにペダルそのものの不具合があるとしてアメリカ、ヨーロッパ、中国でリコールに踏み切ることになった。昨秋来のリコールと合計すると回収台数は昨年のトヨタの世界販売698万台を上回る700万台以上、一説には900万台近くの巨大リコールとなる。
 おそらくこの一連のリコールにより、5000億円くらいが吹っ飛んでしまうだろう。
 
 そもそもリコールのきっかけは、アメリカでレクサスESのユーザーが高速道路を走行中にアクセルペダルが戻らず、死亡事故が発生したのがきっかけだ。原因ははアクセルペダルがフロアマットに引っかかり、もどらなくなるとされた。
 事故を解析したアメリカのNHTSA(運輸省・交通安全)とトヨタの間ではやり取りがあったようだ。トヨタは当初はリコールに否定的だったがNHTSAに押し切られたようだ。
NGY200911250015.jpg
 標準装備のマットはカーペット調で固定金具も装備されている。しかしこの金具から外れるとマットが奥に移動するとペダルに干渉すると見られる。さらに、画像のようなアメリカのアフターマーケット品、あるいは販売店の用品と思われる雨や汚れに強い厚みがあるゴム製のオールウエザー・フロアマットがあり、これは金具固定ができないようだ。
 フロアマットは、位置決めして固定されていれば問題はないと思われるが、固定がはずれると乗降の繰り返しにより、マットが奥に移動してペダルの下端と干渉するとのだ。特に厚みのあるオールウエザー・フロアマットはいったんペダルと干渉して引っかかると、ペダルは戻りにくい。
 トヨタはリコールにより、マットそのもの(固定方法変更?)と、長さを短縮したアクセルペダルに交換する予定。
社外製の、位置が固定できないフロアマットは使用しないようユーザーに対する注意喚起も行っている。
 
 しかし、NHTSAの調査は綿密であったようで、これだけではすまなかったのだ。実は2007年頃からトヨタ車ユーザーからアクセルペダルそのものが戻りにくいと指摘があったのだ。ニュースによれば、ピックアップトラック「タンドラ」のアクセルペダルの戻りが悪いという内容であり、調査の結果、ペダルの戻りを調整する部品が湿気を吸って膨らむことが分かったが、安全面で支障はないと判断しリコールを見送ったという。
 また、欧州でも08年末にユーザーから「アクセルペダルが戻りにくい」とクレームがあったが、欧州当局とも協議した結果、安全面に問題はないと判断したというニュースもある。トヨタはこれらの経緯をNHTSAにも報告していたが、NHTSAはこの件もウオッチしてはずだ。このため、トヨタは最終的に該当アクセルペダルを備えたクルマすべてをリコールすることを決断せざるを得なかったと思われる。

 で、問題のアクセルペダルは、アメリカのCTS社のアクセルペダル・モジュールなのだ。
もちろんトヨタはデンソー製のモジュールも採用しているがこちらは問題なしで、主として現地生産されたクルマにこのCTS社製を採用していた。したがって日本で組み立てられたクルマの多くはデンソー製と思われる。このため、日本国内仕様はリコールにはなっていないのだ。
denso_pedal.jpg
↑デンソー製

CTS_pedal.jpg
↑CTS社製

 また、CTS社製のアクセルペダルは、日本車では日産、ホンダ、三菱、海外メーカーではフォード、VW、ルノーも採用しているが形状、材料などが異なる別ユニットで問題は発生していないとされている。また日産はブレーキ・オーバーライド制御も組み込んでいるという。(ブレーキ・オーバーライドに関しては文末を参照)

 近年のクルマはすべて電子制御スロットルバルブが採用されており、そのためにアクセルペダルはかつてのように、ペダルを踏むことでアクセルワイヤーを引っ張り、エンジンのスロットルバルブを開けるという機械的な仕組みではなくなっている。
 スロットルバルブの開閉はECUからの指令で電気モーターで開閉される。
 ECUは、アクセルペダルの踏み込み量や踏み込み速度をモニターしながら、スロットルバルブの開閉を制御するのだ。
 言い換えると、今ではアクセルペダルは単なる電気的なスイッチに過ぎないのだ。
 
 電子制御スロットル(ドライブバイワイヤー)が採用され始めた1990年頃までは、スロットルバルブ部もバックアップ用の2重のバルブを装備したり、アクセルペダルそのものも従来の機械式ペダルと同様のしっかりした作りになっていた。
 しかし電子制御の信頼性が向上したため、2003~2005年頃にはアクセルペダルは単純な電気スイッチに変貌した。従来の機械式では、ペダル部分はリンク機構、リンク機構からエンジンルームへのワイヤーの配線、スロットルバルブの回転式リンクにワイヤーを取り付けるなど、けっこうな組立工数が必要だったが、現在では運転席側にアクセルペダルをボルトオンし、電気配線のカプラーを差し込めばでき上がり、という具合に生産工数も大幅に少なくなっている。

pedal1.jpg
pedal2.jpg
↑CTS社製ペダルモジュール

 アクセルペダル=電気スイッチであることが徹底され、生産コスト低減、軽量化、簡易化が徹底され、現在では大半は樹脂製になっている。そして樹脂製のペダルモジュール内部にストロークセンサー、ペダルの重さやキックダウン感覚を演出する回転軸を備えているのだ。
 今回、問題になったCTS社のペダルではその回転軸のフリクション(摩擦抵抗)発生装置が磨耗するのではなく逆に湿度などで膨張し、過大なフリクションを発生し戻りが悪くなったようだ。
 もちろんアクセルペダルの規格は、安全法規に従い、何100万回という耐久テストをパスしているが、磨耗ではなく膨張によるフリクションの増大は、耐久テストの盲点だったのかもしれない。

2月1日、トヨタはCTS社製のアクセルペダルを装備したアメリカ生産8車種のリコールとその対策法を発表した。
「トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、アクセルペダルの不具合に関するリコール対象車に関し、米国の対象車両となる8モデルに対し改善措置の内容を決定し、現地1日、米国トヨタ自動車販売を通じて発表した。
 本件は、アクセルペダル内部のフリクションレバー部が磨耗した状態で、低温時にヒーターをかけるなどにより当該部分が結露すると、最悪の場合、アクセルペダルがゆっくり戻る、または戻らないという現象が発生する可能性があるもので、お客様に安心してご使用いただくために、現地1月21日、リコールを行うことを決定した。
 今回の改善措置の内容は、アクセルペダル内部にスチール製の強化板を挟むもので、これによりアクセルペダルの不具合の原因となるフリクションレバー部とペダルアーム部の接点に隙間を設けるとともに、ペダルの戻る力となるバネの反力を強化する」(プレスリリース)としている。
 当然ながらCTS社と協議して、このスペーサーを挿入する方法を決定したのだろう。
Pedal_Assembly-prv.jpg

 現在のプラスチック製のアクセルペダルは、どのくらいの強度が見込まれているのかも興味深い。
 従来の量産車を改造したレースカーの場合はアクセルペダルも市販仕様そのままだが、レース中にアクセルペダルのスチール製バーが曲がってしまうことはよくある。つまりレース中にアクセルを全開に踏み込むドライバーの踏力は予想外に大きいのだ。まさに床を踏み抜くほどの力がかかっているのだが、プラスチック製のペダルならストッパーを上手に設計していないとペダル部が折れてしまうことも考えられる。
 無論この場合は、アクセルを踏み込めない方向になるので暴走の危険はないのだが。

 なお万が一、アクセルペダルが戻らないような事態ではどのように対処するか?
 その前に、蛇足だがもっとも危険な状態はブレーキペダルが踏み込めないケースだ。これは、缶コーヒーなどの空き缶が床に転がっているような場合、運が悪いと缶がブレーキペダルの下側に入り込み、ペダルを踏み込めずパニックになる。この場合はノーブレーキとなるため、ギヤをニュートラルに、さらにエンジン・オフ、ハンドブレーキをかけるしか対処法がない。
 アクセルペダルが戻らない場合は、まずブレーキペダルを思い切り踏み込み、同時にハンドブレーキもかける。しかしエンジンが駆動力を発生させているためブレーキの効きはとても弱い。ブレーキ操作と連動してギヤをニュートラルに。以上の操作の後にエンジンをオフにする。なお、通常のキー式の場合はオフを通り越してロックの位置まで回さないこと。ロック位置まで回してしまうとステアリングが切れなくなるからである。

 また筆者は未確認だが、電子スロットルを装備するVW車は、アクセルペダルを踏んでいても、一定以上の強いブレーキペダル踏力が加わる、つまりアクセルとブレーキペダルの同時踏みの状態になると、フェールセーフとしてブレーキオーバーライド制御になるそうだ。これはふたつのペダルの同時踏みの条件では、アクセルペダルをいくら踏んでいても、自動的に電子スロットルを閉じるというもの。たぶんこのフェールセーフは、アクセルペダルの失陥を想定した制御だろう。
 トヨタもリコールとは別に改善策として、このフェールセーフを採用すると予想される。
電子スロットルの登場、ドライブバイワイヤー(DBW)の実現は革新的であり、電子スロットルにより現在の総合トルク制御ロジックも成立している。しかし、同時に従来の常識が通用しない新しい次元に入ったともいえる。
 航空機ではフライバイワイヤーがクルマより先に実現しているが、オーバーライドの概念は、中華航空140便墜落事故の例を見れば明らかなように、きわめて重要だと思う。
 エアバス社は、航空機を操縦するのは訓練を受けたプロの操縦員のみだと考えてオーバーライドを低めにし、同時に操縦桿などのコントロール類も一定の操作荷重設定とした。しかし、友人のパイロットの話では、ボーイングはオーバーライドを多めにし、操縦操作系の荷重も操作比例荷重にしているという。
 けっきょくエアバス社もボーイング式に後に変更している。
 クルマの場合は、パイロットとは違って一般人が運転することを考えれば、フェールセーフ、オーバーライドはより重視しなければならないと思う。

最新のニュースでは、アメリカ運輸省長官がトヨタのリコールについて異例にも会見している。運輸省はリコールに漕ぎつけるまでに努力を要したこと、トヨタのリコールの件はこれで終わったわけではない、とわざわざコメントしているのは、当初はトヨタがリコール扱いに抵抗したこと、NHTSAに押し切られる形でのリコールであったことを示唆しているのだ。したがって、議会での公聴会では、トヨタはかなり厳しく追及され、伝えられるように制裁金が課せられることもじゅうぶん考えられる。
 トヨタの問題は今後は政治的な要素を含みつつ、より大きな問題になるかもしれない。
 
 なお、日本では主要新聞で2009年から発売された30型プリウスのブレーキの危機に問題があるとのクレームが国交省のホームページに寄せられていることを取り上げており、国交省はトヨタに調査を指示した。むろん、プリウスのブレーキ問題は、アメリカのリコールの件とはまったく関係はないが、いよいよかつての三菱自動車化現象になりつつあるようだ。

コメント

非公開コメント

Re:アメリカのマスコミが狂喜してる さん

コメントありがとうございます。
たしかにこうした側面もあると思います。
ただ、アメリカ運輸省は、当初のフロアマットやアクセルペダルの問題で運輸省がリコールを提案したのに対しトヨタが抵抗したため、気分を害したのではないかとも考えられます。

80年代の日本車バッシングは、日本からの集中豪雨的な輸出に対しての反感が強かったですが
現在は大半は現地生産ですから、やや状況は異なります。

同時に、GM、フォードの再生を願う気持ちも当然あるでしょうね。

日本企業の例では、ブリヂストン(ファイアストン)がSUVのタイヤバースト事故事件で、理解しにくい対応をしたことで、一気に反感を買い、大リコールになったことがあります。やはり対応、特に初期の対応が事件の印象を決める要素が大きいです。

【コラム】トヨタはワシントンの公開リンチ犠牲者…カナダ紙【自動車産業】

カナダの経済紙フィナンシャル・ポスト(電子版)は4日、「トヨタ戦争」と題するコラムを掲載、米景気が低迷する中で政府や議会、メディアによるトヨタ自動車への厳しい批判は米国の国益に沿ったもので、トヨタは「犠牲者だ」と擁護した。

ホワイトハウスは政治的な意図を否定するが、コラムは、ラフード運輸長官が議会でリコール対象車のオーナーは「運転をやめるべきだ」と発言、後に撤回した騒ぎも「前もって計算された行動のようにみえる」と指摘した。

同長官やワクスマン下院議員(民主党)ら「最高レベルのやり手の政治家」が繰り返しこの問題に言及した時、トヨタ攻撃は「ワシントン恒例の公開リンチ以上の気晴らしになる」とした。

ソースは ttp://sankei.jp.msn.com

■Financial Post
The war on Toyota

Re: はじめまして

コメントありがとうございます。

アクセル、ブレーキペダルの踏み間違い事件は、30年ほど前にも[AT車暴走」で、マスコミの話題になりましたし、その後も断続的に踏み間違い事件があり、20年ほど前にMT車はクラッチを踏みながら出ないとエンジン始動ができなくなりました。この当時はまだ電子スロットルではなく、機械的なスロットルでしたが。
普通では考えられない踏み間違いは、私はありえると思います。
印象としては、踏み間違いをする人は老人、主婦などが多いように感じられます。
その特徴は、たまにクルマに乗る、運転ポジションがしっかりしていない=腰の位置が一定ではない・・・といったことが想像でき、着座位置がずれていると、踏み間違いを起こしやすいように思います。

もちろん、それ以外にはアクセルペダルがマットなどにひっかかったなどの辞令もあるのではと思われますが。

似たケースとしては、AT車でRとDを入れ間違えて・・・ということは上記の踏み間違いより頻度が多いと思います(特にRで警報が鳴らないクルマ)。ただ、普通はアクセルを少し踏んだ時に自覚できるのですが。

はじめまして

大変勉強になりました 私が気になることは アクセルとブレーキ踏み間違いで事故になるケースなんでが、本当に人の間違いだけなのでしょうか? 誤作動も充分ありうると思うのですが・・・

Re: はじめまして。

コメントありがとうございます。

現地生産で、現地部品を調達するのはけっこう大変だと思います。今回の場合は他メーカーでも実績のある部品のようですが。他のメーカーではクレームがあったのかどうか、公聴会ではっきりするとは思いますが、ファイアストン(ブリヂストン)の時と同様にやっぱりトヨタが
袋叩きになるでしょうね。

オーバーライドはやっぱりエアバス社の例のように単にシステム設計の問題というより思想という領域の課題だと思います。

はじめまして。

近藤634と申します、非常に分かり易い説明で納得しました。

フロアマット、磨耗部の結露、とマスコミの報道では???
でした、この記事を見て完全理解しました。

実は私、以前にデ○ソーで技術者をしていました(エンジン制御ECUの設計)、
CTS社製の不具合と知り少しホッとしています。

>磨耗ではなく膨張によるフリクションの増大は、
>耐久テストの盲点だったのかもしれない。
    ↑
同感です、ペダルASSY単品での実負荷耐久試験を高湿状態で行うのは困難です、
もちろん実車でも不可能に近いと思われます(高温高湿槽の手配が困難)

でもオーバーライド機能の装備を怠ったというのは、にわかに信じがたいです、
それが真実だとしたら信頼性設計の文化が廃れつつあるのかも?

ほんと大丈夫なんだろうか?心配になってきた。

Re: タイトルなし

確かに、現地では部品製造メーカーのCTS社のことはあまり触れられていないようですね。
今回のリコールは、もともとフロアマットに端を発しているので、トヨタが・・・ということになってしまうのでしょう。
トヨタだけではなくフォードなどもこのパーツを使用しているようです。ですからフォードも適用台数は少ないですが素早くリコールしたようです。
ただ、ユーザーからのアクセルペダルに関するクレームがトヨタ車だけなのか、フォードやホンダなどにも寄せられているのかなどは、今後の下院での公聴会で判明すると思います。

Honda もリコールの話が出てきて、アメリカのマスコミが狂喜してる。

米国のテレビ、ラジオ報道では、「アメリカのCTS社の設計ミス」 という事を言わずに、

「ニッポンの Toyota,Honda が しくじった」
等と煽っている。

新聞記事でもCTS社に触れているのはごく少ない。
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