AUDI Q5の技術

5月21日、アウディジャパンから新型MクラスSUVのQ5が発表された。
Q5はQ7の弟分になるが、Q7はポルシェ・カイエンやVWトゥアレグと共通のSUV専用大型FRベースのプラットフォームを使用しているのに対し、Q5はアウディA4、A5と共通の乗用車プラットフォームを使用している。もちろん、アッパーボディは専用で、このボディ構造に対して、昨年末にカーエンジニアが選考したカーボディ大賞が授与された。まあ要するにプロが唸ったボディ構造ということになる。

ボディの鋼板の使用比率を見ると、高張力鋼板の比率は70%に達している。高張力鋼板の開発は日本の製鉄メーカーが先行し、それに伴って日本車が世界No1の高張力鋼板使用率を誇り、欧米メーカーは高張力鋼板の価格が高い、欧米では入手しにくい、製造工場での量産に適さない・・・などの理由で使用比率が低いとされてきた。
しかし、近年のプレミアムメーカーはどんどん高張力鋼板の使用比率を上げてきており、今ではホワイトボディの70%に達しているのだ(最近発表されたメルセデスEクラスも70%だ)。
現在の日本車はせいぜい40%~50%である。
高張力鋼板は加工するために大型プレス機が必要だが、一般鋼板より軽量化ができるというメリットがあるが、近年ではより軽量化と強度を高めるために超高張力鋼板、さらには超超高張力鋼板の使用の行われ、そのためにホットプレス機による熱間成形工法が採用されている。そのホットプレスによる超超高張力鋼板の採用比率も、日本車を上回っている。このホットプレス材が使用されるのは衝突安全性を高めるために強度を確保する部分であり、高強度と軽量化を両立させているのだ。
ちなみにボロン鋼のホットプレス材を使用しているのは、センタートンネル、インナーシル、Bピラー、縦通メンバー、ラゲッジ・バルクヘッド&クロスメンバーで、これらは1600メガパスカル材を使用。こうしたホットプレス設備を内製化しているのはアウディ社が世界初だそうだ。
Q5のボディ構造は、A8に採用されているASF(アウディ・アルミ・スペースフレーム)いらい、骨格をスペースフレーム的にデザインする技術を確立・洗練させているといえる。
またQ5はボンネットやフェンダーを始め、パネル部にアルミ材を多く採用している他、フロント・サスペンションやサブフレーム、リヤサスペンション・リンクなどもアルミ鍛造材や鋳造材を多用しているのも特徴だ。
ボディの製造では、73%、5000箇所がスポット溶接、さらに2液混合接着剤による接合が17%、接合長さは83m、残りの10%はレーザー溶接、さらに細部ではサイドセクション、ルーフレール部のゼロギャップジョイント、リヤゲート排水ガター部など見える部分はハンダ溶接を採用して品質を高めていると言う。接着接合の割合が大幅に増加していることは注目しておきたい。量産性からいえば、当然ながらネックになるが、質感や減衰性能などを重視しているのだろう。日本のメーカーもバブル期には採用事例があるものの、その後はあまり流行っていない。生産性が悪いと考えているのだろう。
さらにフレームの空洞部にはすべてホットリキッドワックスを充填しており、これも世界唯一のメーカーとのこと。
なおQ5は、今年アメリカの保険業界団体の安全審査団体IHSが行った衝突安全テスト(前面オフセット、側面、後突)で最高ランクを獲得。またアメリカ運輸省の高速道路交通安全局(NHTSA)の正面、側面衝突試験でも最高ランクを獲得したそうだ。IHSが最高という認定をするには、上記の衝突実験でGOODの評価を得ることとESPを装備していることが条件となる。これで、アウディはアウディA3スポーツバック、A4、A6、Q7に加えてQ5も最高ランク入りしたことになる。
http://www.safercar.gov/
http://www.iihs.org/ratings/default.aspx

ボディのエアロダイナミクスも追求されており、Q5はSUVではダントツのCd=0.33になっている。アンダーフロアのフラットな処理はいつもながら見事であり、樹脂カバーに頼るだけでなく、排気管やサイレンサーはフロアに完全に埋め込み、しかもリヤエンドはフロア全体がアップスィープしてディフューザー形状になっている。

エンジンは、直4・2.0Lターボ直噴と、3.2LのV6直噴の2種類で、いずれも直噴+可変バルブリフト機構(ハイ・ロー切り替え)を装備。パワー、トルク、燃費で競合車を上回るという。

トランスミッションは7速のSトロニック(DCT)のみ。このDCTは縦置きであることはもちろんだが、細身(ただし全輪駆動用プロペラシャフトがミッションの右側面を縦通している。そしてフロントデフは、デュアルクラッチの下側部分にある新型A4/Aからのレイアウト)である。インプットシャフトを2重構造にすることで3軸化をはかり、ミッション後端にセンターデフ(トルセンLSD)、を備えている。

駆動システムはもちろんクワトロで、トルセンLSDの作用により、前輪に最大65%、後輪に最大85%の駆動トルクを自動配分できる。
サスペンションはフロントが5リンク式、リヤがセルフトラッキング・トラベゾイダル式で、これはA4/A5と同じだ。もともとフロントは4リンク式を採用してきた。そのそも4リンクはダブルウイッシュボーン形式で上下のハブ側ピヴォットはダブル・ジョイント化させ、仮想キングピン軸を理想配置にしてきた(ホイールセンターのキングピンオフセットを最小化)また、理想主義的に、タイロッド干渉を極小にするためステアリングラックはトランミッションの上にマウントし、タイロッドはホイールセンター位置にレイアウトしてきた。
しかし近年、タイヤがさらに高性能化し入力が大きくなってきたため、剛性を確保するためにステアリングラックをサブフレーム面に置き換え(ただしサブフレームマウントではなくハブ吊り下げ式)、タイロッドもサスペンション・リンクとして数えるため、5リンク式と名称を変えたのだ。

リヤ・サスペンションは従来からのトラベゾイダル式で、いわゆるマルチリンクである。

ESPはSUV用に特化され、なんとルーフレールにリーフキャリアー装備すると専用の制御に切り替わると言う。重心高の変化に自動対応させようというわけだ。
オプション設定のドライブセレクトは、スロットルレスポンス、ステアリングのパワーアシストと可変ギヤ比、Sトロニックのシフトプログラム、連続可変ダンパーの特性などを統合的に、スイッチで選択できるシステムだ。
また運転支援システムとして、リヤビューカメラ付きパーキングアシストは標準装備、オプションでは車体左側側面の視界を確保するサイドビューカメラなども設定。
リヤブレーキランプは、ブレーキを踏むと照度アップし、減速度0.7G以上の急制動では自動的にハザードランプが3秒間点滅するなど、安全機能を高めているなどの心配りはにくい。
SUVとしての性能も過剰なほど追求されており、ヘビーデューティなクロスカントリー4WD車と同等レベルになっている。SUVでここまで必要かとも思われるが、妥協しないというのが同社のフィロソフィだから。
