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ホンダCR-Z雑感

 ホンダハイブリッド・スポーツカーと銘打ったCR-Zが発表された。
 ボディサイズは全長4080mm、全幅1740mm、全高1395mmで、ホイールベースは2435mm。
 車両重量はMTで1130kg、CVTで1160kg。
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 ボディ諸元でいえば、全長が2ボックスカー並みに短く、ショート・ホイールベースで、
 その一方でトレッドはフロント1515mm、リヤ1500mmとワイドトレッドになっている。つまりボディ・サイズやトレッド、ホイールベースから見れば確かにスポーツカー的だ。
 ちなみにVWシロッコは、全長4255mm、全幅1810mm、全高1420mm、ホイールベース2575mm。
 また、車両重量も1100kg台で、1.6~2.0Lクラスのクルマとして考えると相当に軽量に仕上げていることがわかる。(シロッコは1340kg)
 全高は、極端な低さを追求しておらず、1400mmをわずかに切るレベルだ。
 エクステリア・デザインはワンモーション・フォルムで、高い位置のリヤエンドが切り落とされる形になっている。フロントエンドも高く、今時には珍しい大きなフロントグリル・デザインを採用。このデザインは従来のホンダにはないデザインといえるが、相当にアクが強いアメリカ顔だ。
 アッパーボディの後端、Cピラー部は強く絞り込まれているのが特徴だ。
 全体の印象は、スポーツカー的というより斬新さ、強いインパクトを狙っているように思われる。
 パッケージングは、完全な2+2で、リヤ席は応急用。フロントシートの着座位置はシビック・クラスより30mmほど低められており、ドライビングポジションは低い。
 プロポーション全体ははVWシロッコに似ているが、ひとまわり小さい。
 
 3ドアクーペのCR-Zは、日本の市場では多くを望めないので、メイン市場はアメリカで、主として都市部で通勤、買い物などに使用されるセクレタリーカー(OL向け)と考えられる。セクレタリーカーは、比較的若い年齢層の女性をユーザーに想定したコンパクトカーで、コンパクトさとパーソナルな、あるいは個性的なデザインが好まれる傾向にある。
 CR-Zは従来より個性的なデザインとスポーツ性、環境性能をアピールしているのが訴求点で、確かに北米ではセクレタリーカーとして人気が出そうな気がする。

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 エンジンは16バルブSOHC・1.5Lで、113(MTは114)ps、エンジンに直結される薄型モーターは14psで、合成最大トルクは約17kgm。通常のエンジン車で、1.8~2.0L車に相当する力を持っている。エンジン自体はけっこうな高回転トルク型とし、低回転時に大きなトルクを生むモーターのアシストを組み合わせることで低中速域で大きな合成トルクを得ているのだ。
 ハイブリッドシステムは、モーターアシスト式のホンダIMAシステムで、バッテリー/PCUユニットはインサイトとまったく同じもので、リヤラゲッジスペースの床下に格納されている。バッテリーはニッケル水素の単1型ユニットを6個直列にしたモジュールを7本搭載している。
 モーター駆動電圧は100Vだ。

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 CR-Zは、トランスミッションはCVTと6速MTを設定。CVTは7段のパドルシフトができる。
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 なお、エンジン(電子スロットル制御)、モーターアシスト、変速(CVT)、エアコン制御、電動パワーステア制御の統合制御を3段階(スポーツ/ノーマル/ECON)に切り替えできる3モードドライブシステムを採用している。なお、6MT車は、スポーツモードで電子スロットルをかなり早開き+モーターアシストを急激に立ち上げ、CVT車のスポーツモードより動力性能を大幅に強調しているのが特徴だ。
 サスペンションはフロントがストラット式、リヤはトーションビーム式。フロント・ロアアームはホンダには珍しくアルミ鍛造製であるが、これは軽量化のひとつだ。
 シャシー・チューニングのイメージはBMW・MINIだというから、クイックなステアリング、ストロークは硬め、かつ少なめで左右の荷重移動速度を速めた、ゴーカート・フィーリングにしてスポーツ性を強調していると考えられるが、これは過去のホンダ・スポーツカーのフィーリングと共通の方向性だ。
 なお、これ以外に、スポーツカー的な要素としては、モーターを加速ブースターとして積極的に使用する、排気音を積極的にドライバーが聞こえるようにする、といった点があり、スポーツカー感覚を演出しているといえるようだ。
 燃費は、10・15モードで、MTが22.5km/L、CVTで25.0km/Lとなっているが、実用燃費は13~14kmLくらいだろう。
 
 今回はハイブリッドカーシリーズの第3弾とされ、ホンダの走りに対する想いを具現化したと言っているが、やっぱりビジネスライクな匂いを感じてしまう。
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スカイラインGTは今

 V36型スカイラインに乗る機会があった。最近マイナーチェンジを受け、4WDモデル以外の全機種に7速ATが採用された。エンジンはV6・2.5Lと連続可変バルブリフト(スロットルバルブレス)機構のVVELを装備した3.7 L。
 タイプS、タイプSPには4輪操舵システム+スポーツチューンド・サスも装備する。
 またスカイラインは、本流のD+セグメントのFRの4ドアセダン、スポーツクーペに加え、クロスオーバーもシリーズに加わっている。
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 スカイライン・シリーズは、もともとプリンス自動車の時代に高性能セダンとしてスタートを切っているが、月販が2万台に達するなど成功した時代があることと、国内専用モデルという制約が課せられ、高性能スポーツセダンという根本はともかく、実際の開発
コンセプトが大きく蛇行したことでも有名だが日産を象徴するクルマであることは間違いない。
 しかし2001年に登場したV35型スカイラインからは、大変革を遂げている。開発コンセプトは「スカイライン・リボーン」(再生)であった。
 実情をいえば、従来のスカイライン・シリーズはR34型で終焉を遂げていたといえる。その一方で、アメリカでの戦略車種として次世高性能セダンXVL、つまりインフィニティGシリーズの開発企画が進められていた。
 先行開発は98年にスタートし、コンセプトモデルのXVLは99年の東京モーターショーに出展された。
 しかしこの当時は日産の経営体制は大いに揺らいいた。けっきょく99年にルノーの支援を受け、経営統合を行いカルロス・ゴーン氏が最高経営責任者に就任した。
 このため、従来の事業や開発はすべて見直しを受けることになり、XVLの開発の成否も不透明になった。
 XVL開発にかかわっていたメンバーは成り行き不安視していたが、ゴーン社長は世界戦略車としてのXVLを承認した。ルノーには存在しないD+セグメント、FR駆動方式が評価されたのだ。
 また開発担当副社長のぺラータ氏は、今後の開発の目標を、ブランド力は「メルセデスのブランド力」、品質については「アウディの品質」と、きわめて具体的なわかりやすい方針を示した。
 このためXVLの開発に当たってはアウディの研究、特にサスペンション構造や品質に直結する生産方法、つまりモジュール組み立てが研究された。
 VXLの開発は近年では珍しい白紙からの開発となり、プラットフォームからすべてを新たに設計している。そして謙虚にもアウディに学ぶという、ある意味で志の高いクルマ作りが模索されたのだ。
 規模の大きさでは比較にならないが、トヨタのマルエフ、初代レクサスLS(セルシオ)に通ずるところがあったといえる。マルエフというコードネームで呼ばれたレクサスは、愚直なほどメルセデスEクラスを研究し、そのために50台ものEクラスを購入したのだ。
 
 XVLでは先行開発の段階で、FFかFRかという検討から行われた。単純にキャビンスペースを考えればFFが有利だ。Dセグメントの上級セダンであることを想定すると、操舵感が滑らかで上質であることやスポーティなドライブ・フィーリング、静粛さどを総合するとFRが有利だ。
 ただ、運動性を高めるためのフロントミッドシップ・レイアウトと、室内の広さやトランクルームの広さを両立させるのはなかなか難しいのも事実で、DセグメントのFFセダンという選択肢もあるのだ。XVLはけっきょくFRにこだわり、しかもFRの持つ欠点の壁を突破するために、超ロングホイールベースと全高を高めにするという着想と、運動性能を高めるためにエンジンをフロントミッドシップに搭載するというFMパッケージを決定した。
 エンジンをフロントミッドシップに配置するということは、トランスミッションがキャビン内部に入り込む形になるが、それはドライバー席と助手席をそれぞれパーソナルな空間を生み出すことにもなる。
 FRにこだわった理由は、商品企画的にいえば運動性能(ドライビング・クオリティ)、プレミアム性の重視の価値観を追求したからだ。
 プレミアム菜価値観とは、ステアリングを握った時の質感の高さや心地よさ、本物らしさ、心に響く満足感などである。
 つまり企画としては世界に通用する21世紀のプレミアムセダンである。
 
 目指すのは、4.7m以下のサイズでフル4座席のセダン、エンジンは2.5Lと3.0L(後に3.5Lに変更)、BMWでいえば3シリーズと5シリーズの中間というポジショニングである。走りは、フラットライドをめざし、FRとして理想的な前後重量配分52:48の実現、日本車として初の2重構造フロント・バルクヘッドの採用、適正化された重量配分の恩恵である優れたブレーキ、床下のエアロダイナミックスの重視と空気抵抗低減を両立させた低抵抗+ゼロリフトの空力特性、世界トップレベルの衝突安全性、80度の開角を持つリヤ・ドアや4リンク式トランクリッド---などが追求された。
 それ以外に、生産時の大幅なモジュール組み立ての採用、樹脂製ラジエーターフレーム、アルミ製サブフレームやリンクとし、フロントにはダブル・ボールジョイントを使用したたサスペンション、大径タイヤの採用などを採用した。
 樹脂製ラジエーターフレーム、製造ライン外でのモジュール組立、フロント・ロアのダブルジョイント式ダブルウイッシュボーンなどはアウディの影響が大きい部分だ。
 XVLは、アメリカではインフィニティGシリーズ、日本ではスカイラインGTの名称を受け継いだが、従来のスカイラインとは完全にリセットされている。
 商品ターゲットは、従来のスカイラインを取り巻くマニアックな雰囲気を消して、より高い年齢層を狙っている。
 そのため、乗り心地はソフトで、ラグジュアリー感を強調した。
 この結果、志は高いものの、従来のスカイラインGTとはイメージが違いすぎ、自動車ジャーナリスト受けはよくなかったが、アメリカでは成功した。


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 2006年秋にスカイラインはモデルチェンジし、V36型となる。
 FMプラットフォームは、FR-Lという名称に変わり小改良を受けた。またアウディ流のダブルジョイント式フロント・ダブルウイッシュボーンはシングルジョイントに変更。またV35型の途中で採用されたエクストロイダルCVTも廃止された。CVTはコスト的に成立しないため、ダブルジョイント・フロント・サスペンションは、完全なアウディ式にできなかったため、中途半端なフィーリングであったためだろう。
 そして基本的なコンセプトに変更はないが、V36型はよりスポーティな走りを求めてGTテイストを強調するなど、走りのイメージはかなり方向転換している。
 V36型の途中から、7速AT、3.7Lエンジンに連続可変リフト機構(VVEL)を搭載。今では333psという高出力を実現している。
 しかし高出力に固執するあまり高回転型となり、7速ATならではの2000回転以下の常用域でのトルク感が薄く、アクセルを踏み込むといきなりエンジンが反応するといった点はクルマのコンセプトと合致していない。
 またせっかくの7速ATとエンジンとのマッチングもいまひとつだ。
 ピッチングが少なく、フラットライドであることや高速域でのしっかり感、リニアで安心感のあるブレーキなど見るべきものはあるが、常用域での走りのしっとり感、重厚感、滑らかさやリニアリティなどの点でバランスの悪さを感じてしまう。
 本来の志の高さや、個々のユニットの性能が優れていることは認めるにしても、細部の熟成不足や全体のまとまりはどうなんだ? 実験部門の細分化の影響なのだろうか。
 バリエーションを乗り比べると、250GTが最もバランスがよく感じる。
 フロント可変ギヤ比、リヤにアクティブステアを配した4輪アクティブステア式のクーペの走りなどはスポーツに特化され、確かに日産らしさを感じるのだが、シリーズ全体では少し方向を見失っているような気がする。

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ブレーキオーバーライド

 話題のブレーキオーバーライド(ブレーキ優先)を試してみた。
 クルマはVW GOLF4(2001年型・5速AT)。
 発進時は、通常のAT車と同じようにブレーキを踏んだ状態でアクセルを踏み込むと、エンジンは吹き上がろうとしてトルクが強まり、ブレーキペダルを離すと最も力強い発進、つまりローンチ・スタートとなる。
 このスタート時は、左足でブレーキペダルを踏んでおり、さらに右足でアクセルペダルを踏み込むので、両ペダルの同時踏みになるが、エンジンはアクセルペダルに反応してトルクを増大させるので、ブレーキオーバーライドは機能していない。
 ところが走行中、つまりアクセルペダルを踏んでいる状態(アクセル一定状態)で左足でブレーキペダルを少し踏み込んでみると、エンジンの回転がすっと下がる。そのままブレーキペダルを踏み増ししない、つまり軽いブレーキを維持するとそのままエンジン回転は下がりアイドリング状態になる。
 逆に一瞬だけ左足でブレーキペダルを踏むとその瞬間だけエンジン回転が少し下がり、ブレーキペダルを離すと、アクセルは一定を保っているので瞬時に回転は元の状態の巡航状態に復帰する。
 
 ここで面白いことに気がついた。アクセルペダル一定の状態でごく軽いブレーキをかけると瞬時にエンジンの回転は下がるが、つまりスロットルバルブが閉じ始めているのだが、普通に考えるとエンジンブレーキが発生し、減速感が生じるはずだが、実際にはエンジンブレーキ効果は体験できず、軽くかけているフットブレーキによる減速感だけで、トランスミッションのギヤはニュートラル状態のフィーリングと同じなのだ。
 また、ブレーキペダルを離すと、その瞬間に踏み込んでいるアクセルペダルに見合ったトルクが発生し、ブレーキオーバーライドによるプラスされるエンジンブレーキ力による減速、ブレーキペダルを解除した瞬間にアイドリングから走行回転数に復帰する増速感がいずれも発生しないのだ。
 ギクシャク感はなく一連のペダル操作で、シームレスな動きなのである。
 これによりほぼ完璧といえるエンジン・トランスミッション・トルク制御の支配下にあり、単に電子制御スロットルバルブの開閉だけではなく発生トルクそのものがコントロールされていることがわかる。
 日本ではスポーツモデルがブレーキオーバーライドを装備していると、左足ブレーキ操作ができないという理由で非難する自動車ジャーナリストがほとんどだ。
 アクセルを踏んだ状態でブレーキペダルを踏むことで、前後輪の加重配分を微妙にコントロールする、ターボエンジンの場合は過給圧を最大限に保ちながらなおかつ車速のコントロールをする、といった点が左足ブレーキ(右足でアクセルは全開)の狙いだが、むろんこんなことは世界ラリー選手権やレースの世界での話であって、普通に道路を走る場合に必須の話ではない。
 また実際のところ、上記のようなブレーキオーバーライドであれば、荷重移動の任意コントロールは可能なので、非難するようなものではないのだ。
 いうまでもなく、ブレーキオーバーライドは、電子スロットルやドライバーの加速意志を検出する電気スイッチ=アクセルペダルが戻らない、スロットルバルブが閉まらないという危険な失陥に対する安全制御(フェイルセーフ)として重要な思想であり、電子スロットルバルブ装備車にとってきわめて重要だと思う。

<追記1>
 2月17日、トヨタは今後の品質改善対策を発表した。アメリカでは電子スロットルの暴走というクレームが出ているが、ECUが電磁波の影響を受けおらず、何重ものファイルセーフが組まれていること、仕向け地ごとにチーフ・クオリティ・オフィサーが品質の責任を持つ制度を新設し、24時間以内に現地での調査にかかれる体制にすること、そして、今後、全車にブレーキオーバーライドを順次採用すること、ECUに内蔵されているイベント・データ・レコーダー(EDR)を
よりいっそう活用できるようにすることが発表の内容だ。

<追記2>
 先日、日産スカイラインGTに試乗する機会があったので、日産のブレーキオーバーライドも試してみた。現在はスカイラインは4WD車以外は7速ATを採用している。
 ブレーキペダルはオルガン式で、ペダルセンサー&スイッチ機構部分はボッシュ社のパーツを採用していた。
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↑スカイラインGTのオルガン式のアクセルペダル。
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↑ちょっと見にくいが、ペダルの裏面にボッシュ製の樹脂製のセンサーユニットがある。

 アクセルペダルを踏んでいる状態でブレーキペダルを踏み込むと、オーバーライド機能が働きエンジン回転が下がるが、日産の場合はブレーキペダルの踏力に比例する感じでエンジン回転数が低下し、トルクが下がる。ブレーキペダルを緩めるとそれに応じてエンジン回転すが復帰する感じで、VW・GOLFとは少し制御ロジックが違うようだ。

<追記3>
 ブレーキオーバーライドと直接関係ないが、もう一つ追加項目が必要であることを思い出した。アメリカでレクサスESがアクセルペダルがフロアマットに引っかかって戻らなかった事故や、アクセルペダルの戻りそのものが悪いということでリコールが行われたが、考えてみれば問題のトヨタ車はすべて吊り下げ式アクセルペダルだった! (1月31日ののブログの画像参照)そもそも吊り下げ式は、ペダルの長さが長ければマットなどに引っかかりやすいわけだ。
 これに対して、VW(GOLF5以降)、日産ばかりではなく大半のクルマはオルガンペダル式なのだ。オルガンペダルであれば、ペダルの下端が床の上に固定されているため、少なくともフロアマットの引っ掛かりが発生しないのだ。
 そういう意味では、このペダル形式も盲点のひとつと言えるのではないか。

 

トヨタの語る真実

 プリウスなど4車種のリコール届出のタイミングで2回目の社長、副社長による記者会見が行われ、この席で初めて技術的な説明が行われた。
 試験の想定条件は、20km/hで走行中にドライバーが30Nのブレーキ踏力を一定に保ちながら、つまり緩やかな減速をしている時、狭い範囲の凍結路面があると、その凍結路面上でABSが作動し、同時に減速度が弱まるが、凍結路面を通過直後にABS作動は停止して通常のブレーキ状態となるので、最初の条件どおりの緩やかな減速を維持する。
 このような凍結部を通過した時の条件で、通常のABS装備車は0.4秒の制動遅れが生じるが、プリウスの場合は0.46秒と0.06秒長くなる。
 この制動遅れにより、ドライバーの当初の停止目標地点で止まるためには、通常のABS車では+10N(約1kg)の踏み増しを要するが、プリウスの場合は+15N(1.5kg)の踏み増しが必要になる。
 逆にいえば、ドライバーは当初からの一定の、30Nの踏力のままでいた場合は、目標停止点まで12.3mであったと仮定すると、通常のABS車では12.9mで停止する。つまり60cmのずれを生じる。
 これに対してプリウスは1.3mのずれ(目標停止点オーバー)となるというのだ。
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 もちろん、これは上記のABS作動時の制動遅れとABS作動後の油圧低下が原因である。
 したがって、当初のトヨタの主張どおり、凍結部を通過した時点で+15Nのペダルの踏み増しを行えば、当初どおりの目標停止点で停止することができるということになる。
 
 トヨタの説明では触れられていないが、上記のような普通のABS車と、プリウスの ABSとの違いは、通常はABSの作動時にブレーキペダルにキックバック振動が発生するが、プリウスのABSはこの振動がほとんど発生しないので、ドライバーがABSが作動したことを感知できないことが大きい。豊田社長は、この点について「プリウスのABSは快適性(振動を抑制する)を重視してしまった」とコメントする。(後述)
 トヨタは従来のハイブリッド車は従来通りのABSを採用してきたが、30型プリウス、SAI、レクサスHS250hからは、油圧ブレーキはモーターによって発生する油圧を使用するのに対して、ABS時にはペダルのストロークで発生する油圧経路を使用するようになっていることが相違点で、図のようにモーターで加圧された油圧と、ペダル・ストローク油圧では油圧特性が異なり、0.3gのブレーキ力(ペダル踏力で4kg)で交差する。
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 つまり減速度が0.3g以下の軽いブレーキ時でABSが作動すると、ABS作動前のモーターポンプ油圧よりペダル・ストローク油圧の方が低いので、ブレーキペダル踏力が一定という条件では、油圧差の分だけ制動遅れが生じることを意味するわけだ。
 
 2010年1月生産車からとリコール対策は、ABS作動時にもABS非作動時と同じモーター油圧にすることで、結果的に油圧回復を従来型ABSと同等の作動遅れにしているのだ。
 これはABS用のECUのリプログラムにより行われる。ROMの上書き時間は10分間程度だという。
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 ここで特筆すべきは、ABS作動時のペダルのキックバックを避けることが構想されていたことであろう。繰り返しになるが、0.3g以下の、つまり軽いブレーキ踏力で緩やかに減速している状態は、前方にある信号機の停止線に合わせたり、あるいは単に速度調節のための、緊張感のない緩やかな減速状態で、ドライバーは突発的なABSの作動をまったく予期していない。
 ただ路面観察眼の優れたベテランドライバーであれば、このようなブレーキ状態でも長さ1m程度の部分的なアイスバーンはインプットされるであろうが。
 冬季の運転場面では圧雪路から部分的アイスバーンに切り替わるような状態で想定しやすいだろう。
 そして凍結部を通過した瞬間にABSが作動するが・・・従来型ABSであれば軽いブレーキ踏力にもかかわらず、ブレーキペダルのキックバック振動が生じ、ドライバーにABS作動をインフォメーションする。インフォメーションがあれば、ドライバーはブレーキペダルを踏み増しするのが自然である。
 しかし、プリウスはABS作動のインフォメーションをドライバーに伝えないため、制動遅れが生じ、なおかつドライバーはブレーキペダルの踏力をルーズに一定を保つことが考えられるのだ。もちろんこれも、経験の深いベテランドライバーであれば、脳内の目標ブレーキ力と実際の減速力とのずれを体感すると、反射的にブレーキペダルを踏み増すと考えられ、したがって修正したブレーキ力により目標ブレーキ力と合致させることができるはずだ。
 ところが踏み増しをせず、ブレーキペダル踏力を一定のままにすれば、目標ブレーキ力とのずれが生じ、空走感、ブレーキの抜け感がフィードバックされ、そこで初めてドライバーは驚く、あるいは目標停止点で止まれない、という実感をする。
 つまり今回の問題は、機構的な問題というよりドライバー心理を無視しているため、特定の条件でドライバーが不安感や違和感を強いられるということが問題なのだ。
 またこうしたドライバー心理の引き金になっているのは、ABS作動のドライバーへのフィードバック、つまりペダル振動がないというインフォメーションの問題ともいえ、大げさに言えばクルマに対する思想の問題ではないかと思う。
 ブレーキに関しては、一般的に、効くとか効かないとか、単純にブレーキ力=減速度や停止距離の問題とされがちだが、実際の交通環境では、減速感やブレーキからのフィードバック感が、アクティブセーフティの観点からは重要であり、減速感と車速の関係を見ると優れたブレーキはリニアは直線ではなく2次曲線の減速性能求められる。
 このようにマン・マシンのインターフェースがブレーキには何よりも求められる教訓のひとつとなるのではないかと思っている。

トヨタのリコール その2

トヨタのプリウス、プラグイン・プリウス、SAI、レクサスHS250hの4車種のリコールが今日、2月9日付けで発表された。

 プレスリリースによる公式発表の内容は以下の通り。

 ***************************************************
 トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、国内で販売しているプリウス、プリウスPHV、SAI、HS250hのABS(アンチロックブレーキシステム)制御プログラムの不具合に関して、リコールを行うことを決定し、国土交通省に届け出いたしました。対象車両は約22万3千台です。

 今回の4車種につきましては、通常路面では油圧ブレーキと回生ブレーキが併用されておりますが、ABS作動時には油圧ブレーキのみに切り替わるため、雪路や凍結路を低速で走行している際にABSが作動した場合、ABS作動前に比べ、制動力が低下し運転者の予測よりも制動距離が伸びる可能性があります。

 ABSの作動時に制動力の低下を感じた際は、ブレーキを更に踏み込めば結果として運転者の予測どおり停止することも可能ですが、よりお客様に安心してご使用いただくために、今回、リコールにより、徹底した対応を行うことを決定いたしました。

 具体的には、リコール対象車両のABS制御プログラムを修正し、制動力の低下を防ぎます。プリウスについては販売店を通じてお客様に本日からリコールの通知をし、2月10日(水)より回収修理を開始いたします。
(修理の所用時間は約40分)。

*****************************************************
症状の説明は、初めて少し絞り込んで説明されているが、要旨としては筆者の推測通り、ABS作動の際の復帰油圧が低いことに対する対策=復帰油圧のアップ、ということだと思う。

 したがって、メディアなどで通説になっている回生ブレーキ→油圧ブレーキの切り替え時間が長い・・・などといった話は誤りだとわかる。
 なお、全世界では役40万台のリコールとなるそうだ。

トヨタ、リコール決定

 最新のニュースによれば、トヨタはプリウスのブレーキ不具合問題で、今週前半にも国土交通省にリコールを届け出ることが明らかになった。またまったく同じブレーキシステムを採用しているSAIとレクサスHS250hも月内にリコールする方針だという。
 興味深いことに、プリウスについてはWEBで低速でABSが作動した時の不満点が書き込まれているが、同じシステムを持つSAIやHS250hはそのような書き込み話題になっていない。これらの車種はプリウスより販売台数が相当に少ないので当然ともいえるのだが。
 プリウスと同じシステムを持つ2車種も含めて一挙にリコールするのは妥当だ。
 プリウスは30万台、HS250hが2万台、SAIが1万台と思われる。
 
 今回は日本だけではなく世界的な話題になってしまったため、国交省とトヨタはかなり突っ込んだ協議を行ったと想像できるが、その協議の中でリコールか、改善対策、サービスキャンペーンか、という選択に迫られた。通常であれば今回は改善対策かサービスキャンペーンに相当すると思うが、社会的な影響を考慮してリコールという方法が選択されたと思う。
 リコールは、重大な事故を招く可能性があると思われるクレームや事故例があった場合に、国交省に届け出て承認を受けた上で実施されるが、通常は部品交換となるようなケースが多い。
 リコールの場合は最も厳格な対策手段であるため、販売店は登録車を全車追跡し、すでに廃車になった車両以外は100%対策手段を行わなければならないので、メーカー以上に販売店側の負担が極めて大きいのが特徴だ。当然ながらメーカー側は販売店のコストも負担することになる。
 ただ、今回の例では、プリウス、SAI、HS250hともに発売後時間がたっていないので、その点ではまだ楽といえる。
 今回のリコールは、実際には部品交換はなく、ABS制御ECUのソフトウエアの改良であり、作業的にはクルマにTaSCAN(トヨタ診断装置)を接続して作業を行う。TaSCANのメモリーカードに改善データがあらかじめ書き込まれており、通信ケーブルを通じてABS・ECU内部のROMを上書きするという手法と考えられる。
 通常はこのようなECUデータのアップグレードは、リコールではなく改善対策かサービスキャンペーンで行われるのが通例だが、今回は社会的な影響が大きくなっているため、対外的に最もわかりやすいリコールが選択されたのだろう。
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 従来のリコール制度下で、ECUの関連で実施されたのは過去にスバルがエンジンECUでリコールを行ったのが唯一の例ではないかと思う。
 この時は、スバルはサービスキャンペーンを選択したが、国交省側との協議がこじれてしまい、スバルはリコール隠しを行っていると判定されて国交省の指示によりリコールに変更されたという経緯があった。この事例は、走行中の減速時にエンジンストップする例が数件だけ国交省に上げられたことに端を発しており、ECUボックスのリコールという異例の事態になった(当時はROMの上書きはできなかった)
 このようにリコールとはいっても、その要件が必ずしも明確ではないのだ。
 ECUの上書き作業は、15~20分で終わるもので、準備作業もTaSCANを診断ポートに接続するだけなので簡単である。
 
 ただ今回の問題は、低速の軽いブレーキ(0.2~0.4gていど)をかけた時に、スプリット路面(片側のみ極端に滑りやすい)の場合はABSが作動し、なおかつスプリット路面を通過した直後にブレーキ油圧の復帰が一瞬遅れるといった現象を皆無にはできない。従来より油圧の復帰が早まったとしても、完全解消にはならはずがないのだ。
 この点で、すべて問題が解消したと考えるユーザーとトヨタや販売店側と齟齬をきたすかす可能性は残っている。
 改めて、ABS付きのブレーキの操作、特定の条件化ではABS作動によりドライバーの感覚と一致しない減少が生じることを啓蒙する必要があるのではないか。
 なお、プリウス・ユーザー掲示板の書き込みによると、すでに販売店によってはフライング気味に、ECUの上書きを実施している例もあるようだ。販売店側の説明では「油圧の立ち上がりを早めている」とのこと。やはりABSのリカバリー油圧を高める改善策のようだ。こうすれば、短時間のABS作動語の油圧回復が早まり、ブレーキの抜け感はかなり低減させるだろうが、走行状況、路面状況によっては、完全に解消とは行かないと思う。

 それにしても自動車ジャーナリスト、自動車評論家のコメントもほとんどが「回生ブレーキから油圧ブレーキへの切り替えで・・・空走」と発言しているのはどうなっているのか。2月4日のブログの中の図のように、もともと油圧はかかった状態の複合ブレーキであり、回生ブレーキ→油圧ブレーキに切り替えているわけではない。
 また、空走感=減速gの抜けが発生すると考えられるのは、一定の条件下でABSが作動した時のみである。もちろん新聞やTVメディアでは、こうしたかなり突っ込んだところを理解した上で書いているとは思えないことはわかるが、業界の人間がこれではどうなんだ、といわざるをえない。

トヨタの何が問題なのか

 アメリカでのレクサスESでの死亡事故、つまり高速で走行中にフロアマットがアクセルペダルに引っかかりペダルが戻らなくなってそのままクラッシュした事故に端を発し、さらにフロアマットとアクセルペダルの干渉以外に、アクセルペダルの戻りが悪いというクレームにより、延べ900万台という多数のクルマのリコールに発展した。
 いずれもトヨタはアメリカで運輸省交通安全局(NHTSA)と協議を行いながらリコールに至っているが、どうやらトヨタは当初は自主的な改善を主張したようで、それに対してNHTSAはリコールを主張し、最終的に大リコールにに至ったという流れのようだ。
 最近になって運輸省側は、トヨタの説得に時間がかけられたことに不快感を示した。むろん、こうした経緯は純技術的な要件だけではなく、多分に政治的な要素が含まれていると見るべきだろう。
 
 ただし、現実的に最初の事故以来、マスメディアが次々に不具合情報をキャッチし、ニュースに流され、そうしたニュースが報道され尽くした後にトヨタが対応するという後追いの形になってしまったことは明白であり、情報戦に失敗したことでイメージを悪化させたと思う。
 CTS社のアクセルペダルについても疑問は残る。自動車メーカーがリコールする場合は供給元の部品メーカー名は明かさず、あくまでも自動車メーカーのリコールとして行われるのが常識とされるが、今回の場合は早々に歴史のあるCTS社の名前をトヨタが明かしてしまったことは、アメリカでは快く思われないだろう。
 また同じアクセルペダルのクレーム対応で、イギリス向けは半年ほど早く対策し、この情報を公開せず、アメリカ市場は半年遅れになったことも不信感を抱かせるものだ。
 CTS社のペダルはアメリカの工場で生産されるクルマ用に現地調達された部品であるが、依然として日本の自動車メーカーにとっては現地調達部品が盲点であることは確かなようだ。日本でのクルマ作りでは、歴史的に系列部品メーカーという確固とした枠組みがあり自動車メーカーと一体になった部品作りが行われてきた。
 しかし日本以外の自動車メーカーは、系列外の独立した部品メーカーから供給を受けることが一般的で、いわばアウンの呼吸が通じる系列部品メーカーとは企業文化が異なるのだ。これをどのように対応し、取り込むのかはトヨタに限らず、すべての日本の自動車メーカーが苦慮している点だと思う。
 また、最近のトヨタ副社長の会見では、部品としての各種の耐久試験は行ったが、実車でのテストが不十分だったことを認めている。
 この点は、フロントローディング開発、出図から12ヶ月でラインオフ、1発試作車というトヨタが先陣を切った日本発の開発法のしわ寄せといえないのだろうか?
 トヨタも以前は商品監査室という、ユーザー視点で商品テストを行う一種のクオリティゲートが機能していたが、現在はどうなのかはわからない。
 今では電気スイッチとなったプラスチック製のアクセルペダルだが、かなり昔には日本国内でもオルガン式アクセルペダル(ペダル下端が床付けのペダルで、その床の可動部が折損する事例)での不具合が発生し、オルガン式ペダルが姿を消すきっかけになった事例もあり、やはり基本中の基本の分は重視しなければならないことを改めて確認できたような気がする。
 
 プリウスのブレーキ問題は、以前からWEB上では書き込まれていたが、アメリカでのアクセルペダルのリコール問題に連動して日米のマスメディアがあぶりだした形になった。アメリカ運輸省はこの件も把握している点もマスコミの報道を加速させた。
 技術的にはアメリカのアクセルペダルの問題とは関連はないが、連鎖的に加速しながら展開するのは、以前の三菱自動車のリコール時と同様であり、じゅうぶんにメディア報道がなされた後に、トヨタの常務役員が会見するという点では、これも後追いの形である。またトヨタ側で販売店からこのクレームが正確に上げられていたかどうかの説明も明確に話されなかった。恐らくほとんど把握していなかったのでなかろうか。
 トヨタはメディアイメージ的に、レスポンスよく責任感を持って対応する真摯な姿勢を見せることに失敗したという点で、危機管理&危機管理演出がうまくできなかった。
 さらに、2月5日の夜の豊田社長の会見も今ひとつであった。直面しているプリウスのブレーキに関しては、社長のみならず担当エンジニア、あるいは開発責任者が出席して、より専門的に具体的に説明すべきだったと思う。メディアが提供している情報はほとんどが誤認識によるものなのだから。逆に言えば、社長や副社長、役員のレベルに、どれだけ正確な情報が上げられているのか疑問と感じる。
 低速走行時の1輪のスリップでABSが作動した時のクルマの挙動や、油圧の減圧から増圧へのリカバリー速度が他車と比べて速いのか遅いのか普通レベルなのかは、エンジニアは知っているはずである。
 豊田社長のコメントは一般論すぎた上に、「顧客第一主義」とか「現地現物」とか、トヨタ語で語ってしまったところは大きなマイナス点だ。これは記者会見に出席していたマスメディアの記者も理解できていないだろうし、一般人はさらにピンと来ないだろう。
 
 筆者はプリウスの低速走行時の1輪のスリップ時のABS挙動が異常というほどのレベルではなく、むしろユーザーに対するインフォメーションが不足していたと考えている。もちろん、タイヤがグリップを回復した時点でのリカバリー速度を上げることは必要と思われるが。
 この点はプリウスだけの問題ではなく、同様な走行条件では他車も同じ挙動を示し決して特異な例ではないからだ。プリウスの取扱説明書や新型車解説書には「下記の条件では,ABS作動時の制動距離がABS非装着車より長くなる場合があります。 [条件] 砂利道、新雪路の走行時、タイヤチェーン装着時、道路の継ぎ目などの段差を乗り越えるとき、凹凸路・石畳などの悪路走行時」とあるが、とても一般ユーザーに認知されているとは思われない。
 このプリウス問題に対しては、トヨタは確かに制御ソフトの修正くらいしか打つ手はないと考えられる。そういう点で技術分析をもっと明確に発信する必要があると思う。
 
 豊田社長は、渡辺社長以来の原価低減運動、それも1割とかいうレベルではなく3割、4割の原価低減を実現した後、新たなトヨタのクルマの味作りを提唱したのだが、そのとたんにリーマンショックによるさらなる35%の原価低減、そして今回のリコール事件の勃発と続き、トヨタの味作りの機運は頓挫してしまいそうな勢いだ。それはそれで残念である。
 当面は品質管理体制の立て直しが続くことになりそうである。しかし本質的には品質管理より、より幅広い設計視野であり、商品(監査)実験体制の充実がもっと重要だろう。短期開発を支えるためには不可欠なのだ。

プリウスのブレーキの怪

 アメリカに端を発したアクセルペダルの問題に続いて、トヨタはプリウス(30型)のブレーキに関して問題を抱え込んでしまった。
 日本では、国交省のホームページにブレーキの効きに対する不具合情報として書き込まれた件数が14件、販売店に寄せられたクレームが77件あり、アメリカでも同様なクレームがあると主要な新聞、TVニュースなどで大きく報道された。このため国交省はトヨタに調査を指示したという。
 トヨタ自動車の佐々木眞一副社長は、さっそく前原国交省大臣に面会し説明を行ったらしい。
 しかし、このクレームの実態は素直には信じがたいところがある。
 
 状況としては、低速走行時に、凹状の路面や滑りやすい路面でブレーキをかけると空走感があり、ブレーキが効かないというフィーリングを受けるというものだ。
 これを、プリウス、ハイブリッド車特有の回生ブレーキと油圧ブレーキの切り替えのタイミングによるものという外野でのしたり顔な補足説明が行われているようだが、そんな問題なのかと疑問に思う。そもそもプリウスは新型に限らず従来からECB(電子制御ブレーキシステム)を備えており、その構造は共通なので、30型のみに発生が見られるのは奇妙な話なのだ。
 
 ECBは機械式油圧ブレーキとモーター回生による電気的ブレーキを協調制御するシステムで、ドライバーがブレーキペダルを踏むと「目標ブレーキ力」が算出され、油圧ブレーキと電気的ブレーキ力の総和が目標ブレーキ力と一致させるように制御される。
 フロー的には、ストロークシミュレーターによりブレーキペダル操作フィーリングを創出するとともに,運転者の要求する制動力を各センサーで検出し、それをもとにブレーキ油圧を制御する。回生ブレーキ力はハイブリッドシステムとの協調制御で決定される。
またECB はドライバーの操作に応じて、通常ブレーキ、ABS、TRC、VSC、ブレーキアシスト、ヒルスタートアシストコントロールの制御も行う。フェイルセーフ機能は、システム異常時にはハイドロブースターの油圧がホイールシリンダーに作用する油圧バックアップ構造とし制動力を確保する。
 なお通常のクルマの油圧ブレーキはエンジンのマニホールド負圧によって油圧サーボ力を得ているが、プリウスはエンジンが走行中にも停止するため、電動ポンプ式油圧サーボとしているのも特徴で、ポンプで加圧された油圧はアキュムレーターに備蓄され、必要に応じてハイドロブースターに供給される。
 ブレーキ制御の重要情報である車輪速センサーはアクティブ式で、0km/h付近でも車速検出ができる高精度タイプだ。
 ECBはストロークシミュレーター(ハイドロブースターからの油圧をストロークシミュレーターシリンダーへ導入することでブレーキペダル踏力に応じた自然なペダルストロークを発生)を備えていることから、ブレーキバイワイヤーに見えるが、オペレーティングロッドとパワーピストンは直結されているので機械式のブレーキ機構であり、電子制御が介入して油圧ブレーキ力を可変コントロールしているシステムといえる。
 
 ハイブリッドカーのメリットを生かすために、回生エネルギーが最大になるように回生ブレーキを優先するが、回生はバッテリーの充電状況に依存するため、一定ではない。
 走行モード別では、高速走行時、回生ブレーキ力+エンジンブレーキ力+油圧ブレーキ力(比率大)が作動し、低・中速時は回生ブレーキ力を最優先し、エンジンが回転している時はエンジンブレーキも加わり、油圧ブレーキが補助するパターンになる。
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 そして極低速やギヤポジションがニュートラルの場合は油圧ブレーキのみの作動となる。
 極低速とは20km/~10km/h付近だろう。この時点でカックン・ブレーキになる、つまりややブレーキの効きが強調されるのは、初代プリウス以来の傾向だ。
 したがって、今回のクレームは極低速時であれば、油圧ブレーキのみの状態であるし、完全な回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替わるというポイントは存在せず、常時油圧ブレーキは作動しており、その比率が違うというだけの話なので、最初から的外れであることがわかる。
 
 さて問題の特定状況でのブレーキの抜け、空走感とは何か?
 実はこれは、同様の走行状況では普通のクルマでも発生することが考えられる。
 低速走行で、濡れた鉄のマンホールの蓋の上を通過する時に、偶然その手前からブレーキを踏んだとすると・・・軽いブレーキをかけただけなのにマンホール上の1輪だけが瞬間的なロックを生じる。ドライバーとしては、車速が低い、ブレーキを強くかけていないのでABSが作動するとは予測していない。
 しかし高精度車輪速センサーを装備していると、その瞬間にロックを検知し、ABSが作動し、一瞬だけ油圧を減圧してブレーキ力を弱める。しかしマンホールは瞬間的に通過するため、ABSによる減圧パルスが生じたときにはすでにその先の路面に移動している。
 このタイミングで一定の力でブレーキをかけているにもかかわらずブレーキ力が弱まり、瞬間的な空走を感じるのだ。つまり車輪ロック検知→ABSによる油圧減圧→ロック解除→油圧増圧という流れとなり、油圧回復が一瞬遅れるタイミングとなる。
 このようなシーンでは普通のクルマの場合は、軽いブレーキ踏力にもかかわらずマンホール上でABSが作動したことを示すペダルの油圧反力を感じ、「コツッ」という感触が得られるはずだ。また短時間ながらパーターパネル上のスリップ警告灯も点灯するはずだ。
 ただ、プリウスの場合はABS作動時のペダルに対する油圧反力が弱い特徴があり、この「コツッ」というフィードバック感が希薄なため、ドライバーはABSの作動に気付かないことのではないだろうか。
 乾燥した凹凸路でこれが発生する場合は、濡れたマンホール上を通過する速度よりやや速い速度だろう。凹凸を通過した瞬間に1輪が跳ね、地面との接地を失ったタイミングでやはり瞬間的なタイヤロックが発生し、ABSが作動する。
 瞬間的なブレーキ抜けについては、こんな状況と想像できるが、他車に比べてプリウス、特に30型プリウスにクレームや指摘が多いという理由は、ABSのペダル反力が弱い、油圧保持→増圧のチャンネル切り替えが遅め、タイヤのウエットグリップがやや弱い、車体の荷重移動量がやや大きめといったことが推測されるが・・・本当のところはわからない。

 なお最新ニュースによると、今年1月からの生産モデルからはABS作動時の油圧減圧→油圧保持→油圧増圧のモード移行のタイミングをやや早める変更を加えているそうだ。ということは、すでに販売された車両でクレームがある場合には制御ソフトを上書きするサービスキャンペーンを実施することになりそうだ。(正確にはサービスキャンペーン扱いにはしないようだが、自主的に更新を検討しているらしい)
 ただし、油圧バルブの切り替えタイミング、つまり油圧モードの切り替えは、単純に制御ソフトだけでは完全に解決しないと思う。制御ソフトでは単に油圧バルブの切り替え指令を出すだけで、実際の切り替えは油圧制御バルブが応答するという機械的な要素も介在するからだ。
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